空気なんて信じてゐない蝶が好き  佐藤雄志

この句は「信じてゐない」のあとで切れるとみるかどうかで、意味が変わってくる。私は「空気なんて信じてゐない蝶」のことが好きだよ、という意味でとりたい。自分の周囲に満ちている空気の存在をもし信じないならば、あのように頼りない飛び方になるのも妙にうなずける。信じるもののない蝶の無頼とも自由とも根なしともいえる姿勢に、作者は「好き」と共感を寄せている。

「俳句」(角川学芸出版)2013年1月号、石田波郷賞奨励賞「なにもしらない」20句より。ほかにも、

日記買ふ表紙の空が青いから
忘れ物のやうなガス灯そして雪
大夏野きのふは星がよく見えた
髪を気にする赤い羽根募金の子

など、いきいきとした言葉運びに魅力を感じた。