冬の蠅床に映えたるシャンデリア  小田玲子

シャンデリアの豪奢と冬の蠅のみじめ。対比は強烈だが、冬の蠅というのは、いかにもシャンデリアのかかる大広間の床を舐めていそうだ。そういえば、どちらも光るもの。その光に貴も賤もない、か。

第一句集『表の木』(ふらんす堂・2012年11月)より。「百鳥」同人。

煙草の火揺れをり夜のふらここに
葵祭見下ろす医師と患者かな
芋版の残りの藷を焼いてをり
春ショールピアノをすべり落ちにけり
雲の峰土佐と薩摩に母の居て
帰省子にインドの小石もらひけり
探梅の一本締めで別れけり
囀りや地図を拡げるボンネット
営林署日誌に雉の描かるる
朝寒や追ひかけて来るホテルマン

見慣れた季語が、妙にリアルな景色の中に置かれて、新鮮な風合いを醸し出している句が印象的だった。