寺畳踏めば春陰ことさらに   角川照子

本堂の中から、梅が咲き蝶が飛ぶあたたかな春の庭を見ながら歩いている人。
寺の中の独特の暗さが「寺畳」から立ち上ってくるようだ。
この「春陰」は、場所としての暗さだけではなく、自分の内の暗さでもあるだろう。
「ことさらに」という措辞の説得力が不気味な一句。

『阿呍』(牧羊社、1983)より。