これはかの醤油のなごり更衣   櫂未知子

日ごとに暖かくなるこの頃。厚手のセーターを仕舞いつつTシャツなどを引っ張り出していると、
「醤油」の染みが残る服を見つけた。「なごり」であるから、うっすらとした染みである。
「これはかの」というもったいぶった言い回しが面白い。
この服を着ていた日のことを、醤油をこぼしてしまったときの状況を静かに思い出す時間。
日常の生活の中で過去の出来事に出会うという体験のささやかな動揺が描かれている。

「壷」(『ガニメデ 57』銅林社、2013.4)より。