神野紗希
2011年6月12日(日)の朝、一通のメールを送る。
「今日、15時半、渋谷ハチ公前ね」
おもいたって、スピカ編集の3人で「第1回東京マッハ」を見に行くことにしたのだ。
このイベント、ホスト役の千野帽子さんが、ゲストを迎えて、壇上で句会を行うというもの。第1回のゲストは、俳人の堀本裕樹さん、小説家の長嶋有さん、ゲーム作家の米光一成さん。千野さん、長嶋さんが俳句をやっていたのは知っていたけれど、へーえ、米光さんも俳人なんだあ(嬉)。
観戦チケットは、すでに2週間前に完売。ただし、当日 16:00に並べば、じゃっかん席があるとの情報を得て、10分前に受付へ。一番乗りだった3人は、ちゃっかり、整理券1~3番をもらう。いわゆる、キャンセル待ちの状態だ。向かいのカフェで、開場の17:00までハイボールなど飲みながら時間をつぶしたあと、受付へ戻ると、なんと佐藤文香の姿が。「どしたん」と聞くと「観にきたんよ」という。彼女も予約ではなく当日券狙い、整理券を見せ合って、「1番かよ!」とか言われる。えへ。
キャンセル待ちの結果、なんとかみんな、ぎりぎりに会場内へ。手元に配られたのは、4人の出演者がつくった句の、無記名一覧(いわゆる清記用紙)。同じものが2枚あったのは、提出用と控え。会場の客も選句をすることになっていて、一枚は選句結果を書いて提出、一枚は観戦用に手元に残るというわけだ。音楽とともに千野さんが登場し、ゲストを呼び込む。着席したところから、句会がはじまる。
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句会ライブの流れは、まず、4人が順に選句を発表(特選1、並選6、逆選1)。点の入った句、逆選の句を中心に、お互いの感想を言い合う。いくつかの句の作者が明かされると、なんとなく傾向がわかってきて、次の句が誰の句か、だんだん予想が当たるようになるから面白い。ポップだと米光さん、じんとする系が長嶋さん、ツッコミ系が千野さん、the俳句、だと堀本さん。どこかで、この句会の模様も発表されるかもしれないということなので、1句ずつ、話題になった句を挙げて、句会の紹介にしたい。
手押しポンプの影かっこいい夏休み
堀本さん、米光さんが特選。千野さんが並選。よって、作者は、残る長嶋さんとおのずから分かる。長嶋さんは、自ら手押しポンプの写真を持参。「ほら、若い人とか、知らない人いたらいけないと思って」。なんでも、インターネット上でポンプの画像を探し、それをプリントアウトしてきたのだという。「コンビニで拡大コピーしたんだよ!家のプリンターだとここまで大きく印刷できないんだよ!このポンプは楽天で¥21000だよ!」などと言い、終始、会場の笑いを支配していた。エンターテイナーだ。
「もし字余りだっていわれたら、反論しようと思ってこんなのもしこんできた」といい、もう一枚の紙をとりだすと、そこには、似たような2句。
七月や手押しポンプの影濃くて
七月や手押しポンプの影きれい
「575にいれようと思えばいれられるんだオレ、的なアピールです」と自ら説明し、またまた会場爆笑。「でも、僕がいいたかったのは“きれい”じゃなくて“かっこいい”ってことだったから」と、提出句のかたちにした理由を言っていたのにはうなづく。うん、“かっこいい”と“きれい”は、全然違う。前者のほうが、だんぜんゴツゴツしてて男の子っぽい。冒険感が出る。
よりによって花火の晩にそれ言うか
堀本さん、米光さん並選。長嶋さん、この句のリア充っぷりに少々ご立腹の様子。「花火に行く相手がいて、花火見に行ってて、なんでそれを、こっちが面白がってやんなきゃいけないの」。作者は千野さん。下5の「それ言うか」を「言うかそれ」にするかどうか迷ったと言っていた。「それ言うか」だと、明るいツッコミ。「言うかそれ」だと、ケンカはじまりそうな言い捨て。私は、「言うかそれ」のほうが、順序が変なぶん、より口語っぽくて、リアルなかんじがして好きだな。これが、会場の一番人気の句。
全員が全長52メートル
千野さん特選、堀本さん逆選。特選と逆選の両方が入るのが、句会の面白いところだよね、みんなの価値観がぶつかりあって、というような話と、全長52メートルって、円谷プロ的な?ウルトラマンセブン的な?という話で盛り上がる。長嶋さんの鋭い推理のメスがこの句にも。「最後の52メートルの数字の必然性が、ほら。字数を考えると、2か5か9でしょ。その3つの中だと2だけど、ほら、字数の問題で3つにしぼれちゃってる時点で、ねえ」。作者は米光さん。「どうなの?どういうつもりで出したの?」と聞かれても終始、「いや・・・」「もういいでしょ・・・」と口を閉ざすのであった。
つりしのぶ暮れて厨の音色かな
長嶋さん、千野さん並選。「台所の晩御飯の支度の音聞いて、手伝わずにつりしのぶなんか見ちゃって、いい気なもんだよね」と、また軽快な毒舌。長嶋さんの「俳句の面白いところは、“そんなことを俳句に詠んでるというメタ性”にある」という発言に、ははあなるほどと思う。このメタ性をふまえると、「甘草の芽のとびとびのひとならび 高野素十」「真っ白な大きな電気冷蔵庫 波多野爽波」系の句が、俄然面白くなる。この句の作者は堀本さん。今日の挨拶句だという。「暮れて」は、東京マッハの句会ライブのはじまる時間帯。自分たち4人の句会を、台所でお料理をつくることにたとえて、「いいハーモニーができれば」と。「挨拶句かよ~」「気付かなかったよ~」「自分でつくるとき挨拶の“あ”の字もなかったわ~反省するわ~」と、他の3人、くちぐちに。
そんなこんなで、にぎやかな句会は、約2時間半の幕を閉じたのでした。今度は紅1点を迎えて、第2回もぜひ開催したいとのこと。楽しみ、楽しみ。
最後に、たくさんの名言が飛び出したので、それを辞書風にいくつか紹介して、稿をとじたい。
中二病【ちゅうにびょう】
①句会でやたら逆選をやりたがるノリのこと。
②題詠の題で、やたらカタカナの単語を出すこと。
紀香役【のりかやく】
句会において、句は出さないけど、選句に参加してくれる人のこと。K―1グランプリの解説・藤原紀香になぞらえている。
ゆすらうめ【ゆすらうめ】
長嶋有さんが、季語に困ったときに使う季語。同義:アマリリス
近親憎悪【きんしんぞうお】
同じようなメンバーで句会を繰り返していると、だんだん互いの句の傾向が読めてくる。そこで、他のメンバーの真似をして、句をつくってみたりすることもある。すると、その当人から「オレならもっとうまくつくるぞ」と猛反発を受けること。
四捨五入句会【ししゃごにゅうくかい】
句会は、4人だと、ゼロにひとしい。作者が分かってしまう、という意味。
自分時事句【じぶんじじく】
長嶋さんが、自句「ふらここや似てない物真似を許す」に対して使った言葉。「鈴木くん」という編集者と2人でしゃべるというユーストリーム配信の番組を最近はじめた長嶋さんは、いつも番組内で「鈴木くん」が物真似をするので、そのことを詠んだ、だから自分的には時事句だ、ということ。マイブームの進化系。
(了)