夏椿探しに星野麥丘人

2003.11.11ふらんす堂発行
『季語別星野麥丘人句集』

星野麥丘人さんが亡くなってしまったのを知って、とても悲しい。一回目の波郷大会でスピーチをされるのを見ただけで、大先輩ですから、話かけた事はありませんでした。あぁ、とても残念です。
僕は麥丘人さんの俳句が好きで、「鶴」が置いてある本屋でよく立ち読みしてたんです。

木枯さんからは独自の美意識を、麥丘人さんの句からは、「明るい老い」や「なんじゃそりゃ」という句の楽しさを随分学ばせていただいた気がします。

なんというか、勝手に憧れていました。お手紙とか出してみようかなぁ…と考えてたんですよ、遅かったです、ただただ残念です。

今日は『季語別星野麥丘人句集』を読んでいきたいと思います。みな僕の好きな句です。

瀧落ちて山中の春ゆるやかに

春の瀧は可愛らしく

母泊めて春の大きな月ありぬ

いつまでも、母は母なり

春雷やひとりたまたま海の上

あぁ怖かった的な

壺焼を食へとは誰も言はざりき

言えばいいのに

椿餅つばきのことをあれこれと

波郷門の必須科目として「椿」

野遊びのつもりで来しが皆真顔

すなわち吟行

二階より雪の山見て春やすみ

濃いお茶とか飲みながら

すかんぽや誰もいはざる緑雨の忌

いはざる忌日はこう詠む、郁乎さんが喜びそう。ご存知だったかなぁ、この句。

夕べまでひとりがよろし梅の花

それからあとは二人がよろし

花たのしいよよ晩年かもしれぬ

最近木枯さんの事をよく思い出してるんですが、僕の晩年っていつだろうとか考えるようになりました。五十年後かもしれないし、今かもしれない。あ、長生きするけどね。

椎樫は先生の樹ぞ夏始

波郷門なら椎に樫水を飲むなら百日紅前

梅雨深し金貨降る夢みたりけり

ごめんなさい、先生それ雨です。

すててこは日本の下着洗濯す

ちなにに前書は「スイス行」

何の意ぞ水着の妻が夢に出て

カマーン、いや…。

蝮酒飲んでなんともなかりけり

なんとかなったら困るけれども…。ちょっとがっかりな感じもある。

世の中にあつてよきもの金魚の日

これ一番好きな句です。これぐらい、明るく優しくありたい。もう一回言おう、一番人気な句です。

ががんぼに酒吸はせたし梅雨の宿

ががんぼ「やめて」

ひまはりの好きな男と会ひにけり

やぁって気持ち良く手を振ってくれそう

秋暑し昼のテレビにフラミンゴ

テレビも綺麗に映るようになりました

老人と見られてゐたる花野かな

やすらかで、少し寂しいのが良い

たまたまや渡りて盆の葛西橋

波郷門なら一日一度葛西橋

かりがねやいつも気になる河合曽良

フルネームで言ってみた

空あをくてのひらいつも冷たくて

水色で濃すぎない空が好きです

冬深し新聞読めばすぐ昼に

寒いからまだ外は出ない

初時雨茶碗蒸などいただきて

そして俳句を詠んだりして

朝酒の猪口うすあをし冬座敷

朝酒って別に全く綺麗ではないんだけれど、こう詠むと、なんだかいいよね、たまには。
ちなみに夜の酒より昼の酒がうまいし、昼より朝のがうまいです。試したけどほんと。

鮟鱇の子といふものを食はされぬ

あぁ可哀想じゃないか、と思いつつも悪いので食う。

日当ればみんなしあはせ実南天

こういう句を読むと僕もしあはせ

只呉れぬ桶一杯の水仙を

桶ってのが嬉しい。

初晴や波郷の墓を乾(から)拭きす

波郷門なら正月はまづ深大寺

よろこんで老人ばかり初写真

ピース

星野麥丘人さんは現役の俳人の中では僕が最も作品を楽しみにいた俳人の一人でした。読者としてファンでした。一声「こんにちは」でも良いから話かければ良かった。何もかも遅いですが残された作品は読めます。これからも永く楽しんでいきたいです。

全句集、出れば絶対に買います。出て欲しいなぁ…。晩年の句は特に面白い句がモリモリありました。

会いたい人には絶対会っておいた方が良い。