(『芥川竜之介俳句集』加藤郁乎編・岩波文庫・2010年発行)
2010年に出たばかりの岩波文庫『芥川竜之介俳句集』みなさん持ってますか?
え?芥川はもう持ってるし、買ってない、という方もきっといらっしゃるかと思います。
残念!それは大分損をしてます。
みなさんは芥川の俳句って多分、
木枯や東京の日のありどころ
蝶の舌ゼンマイに似る暑さかな
とかをすぐに思い出すと思うのですが、いやいやどうして、えっ芥川先生、どうしたの?なんて俳句がもりもりあるんです。そこには俳句の上手い芥川の顔だけじゃなく、俳句が好きな芥川の顔がちらちらと見えてきます。この本を読むと、芥川の事を随分誤解していたなぁ、と思うはず。かわいい芥川なんて、そんなの見た事ありますか?この本の中にはわんさかありますぜ。
と、絶賛するくせに、僕はこの本を買おうと思ったのは、編者が加藤郁乎さんだったから、つまり解説文が郁乎さんならきっと面白い事が書いてあるにちがいない、と、言ってしまえばオマケ欲しさに買ったわけです。
ラッキーな事に読んでいくと、ほらほら面白い俳句がたくさん・・・
水さつと抜手ついついつーいつい
先生、原稿お願いします、・・・書く気ないでしょ、どこかで聞いた事ある句ってとこもお茶目。
ぎやまんの燈籠ともせ海の秋
芥川が好きそうな絵ですね、「秋の海」じゃないところも注目。
春雨の夜を佐殿(すけどの)の風呂長き
歴史に滅法強い芥川、北条政子への言い訳を考えていると考えたら楽しい
徐福去つて幾夜ぞひるを霞む海
徐福伝説をうまく使ってますね。歴史を使った、俺知ってるよ、とばかりの句でないところが良い
芥子あかしうつむきて食ふシウマイ
先生、堂々と食べてください。
・・・シウマイと言いたかっただけの気もするので面白い
ひとり磨く靴のくもりや返り花
芥川と思うとものすごく神経質に磨きそう
花火より遠き人ありと思ひけり
芥川先生、こんな俳句も作ります。顎に手をあててぼそりと言ったり・・・はしないか
花石榴はらしやめんの家の目じるし
大正6年の俳句です、一行の詩としても十分な世界観です。
人名書に曰(いわく)蝙蝠の入墨あり
北斗の拳の悪い人ぐらい悪そう
新しき畳の匂ふ夜長かな
しーん、かりかりと原稿を書いてたんですかね
足の裏見えて僧都の昼寝かな
足の裏を見てしまうところが細かい
炎天や逆上の人もの云はぬ
羅王ぐらい怖い(また北斗の拳)、炎天って!
何となく墓をめぐるや墓参人
何となくが何となく過ぎる
バナナ剥く夏の月夜に皮すてぬ
先生、何やってんすか?「夏の月夜」と格好良い感じが可笑しい、この句面白いなぁ~。
原稿はまだかまだかと笹鳴くや
笹鳴くやじゃなくて書いてください、テスト前の部屋の片付けのような現実逃避
炎天や切れても動く蜥蜴の尾
芥川は炎天のぎらぎらした光が好きなんですかね、くりくり動く尻尾が不気味
日曜に遊びにござれ梅の花
こういう句は下手な方が可愛くて良い
秋風や黒子に生えし毛一根(こん)
秋風のあわれが可笑し過ぎる、僕は志村ケンの変なおじさんを想像してしまう
恐るべし屁か独り行く春夜這ひ
羅生門もぶっ飛ぶ屁
鯉が来たそれ井月を呼びにやれ
芥川は井上井月お好きだったみたい、句もきっとよく読み込んでいるはずです。
三日月や二匹つれたる河太郎
かっぱ寿司のCMではないけれど、二匹が可笑しい
秋風やもみあげ長き宇野浩二
僕らは宇野浩二の事をもみあげ長き人と記憶する事でしょう。
アメリカ人がうつタイプライタアに荒るる
大正10年の俳句、芥川には原稿かりかりの方がよく似合う
象の腹くぐりぬけても日永かな
先生、危ない、って芥川がくぐったりはしないか
枝豆をうけとるものや渋団扇
前書きは、碧童と飲す、俳句を読んでいくと芥川、結構友達好きだとわかってきます。この句も、うけとるものや、に親しさが出てますね。
草の家に柿十一のゆたかさよ
芥川なら本当に数えたかも、不思議と美味しそう。
日もすがら海鳴る音や麦の秋
ね、こんなどこに出しても恥ずかしくない俳句ももちろん作る。
芥川の俳句の面白さは、句集で読むのと本書で読むのとで随分印象が変わります。手頃に手に入る本です、ぜひぜひ読んでみてくださいな。