カモン!火門集(阿部青鞋『火門集』)

ねぇねぇキリンさん、辛い時は何してるんですか?

 

え?泥酔しながら『火門集』を読んでるよ。

 

という事で今回は阿部青鞋『火門集』を紹介させていただきます。
いきなりですが、そもそも阿部青鞋、ご存知ですか?

何句かぱっと出てきますか?

阿部青鞋(1914~1989)は最近の作家なんですが、手に入る本が少ないせいか、作品が面白いわりにはあまり知られていないようです。ちなみに僕の『火門集』は書肆稲妻屋発行の阿部青鞋全句集第一回配本の『火門集』です、1992年4月15日 並製120部となってますので、どこかで見つけたら迷わず購入される事をオススメします。さくっと手に入る資料としては、沖積舎の『俳句の魅力阿部青鞋選集』がオススメです。
まぁ面白いので句集を読んでいきましょうか。

 

 

梟の目にいっぱいの月夜かな

 

いっぱいの、が可愛すぎる

 

 

ぶりの血を見ながら牡蛎を買いにけり

 

鰤は?買わなかったんだね、ごめん鰤。妙にリアルな魚臭さ

 

 

足に火がついてもさむし梅の花

 

火も梅の花もなんだか現実のものじゃないぐらい静か

 

 

かあかあと飛んでもみたいさくらかな

 

大好きな句、下五、さくらかぁ、おぉっと驚きませんか?気持ち良さそうだなぁ、かあかあ、僕も飛んでみたい、明日も仕事だけど。

 

 

おやゆびとひとさしゆびでつまむ涙

 

道化師が化粧に描くダイヤのような大きな涙が見えます、つまむ涙という言い回しが良いですね、涙をつまみ~的にするとなぜか面白くなくなります。

 

 

赤ん坊ばかりあつまりいる悪夢

 

気持ち悪い・・・、うーん、こんな夢ばっかり見るようになったら駄目ですね、温泉にでも行った方が良いですよ。

 

 

感動のけむりをあぐるトースター

 

感動って!馬鹿馬鹿しくって大好きな句、みんながこんな句を作れば世界はもっと平和になります。

 

 

少年が少女に砂を嗅がしむる

 

こんな可愛い子達も大人になってしまう

 

 

失楽園らしくとうもろこしを焼く

 

諦めと図太さ、これぐらいでないと

 

 

一匹の蚤はずかしくとびにけり

 

いやんっ!とぴょんと跳ねる、なんとかわいい蚤よ、でも蚤だしなぁ・・・

 

 

かたつむりいびきを立ててねむりけり

 

ググググとかズズズズとか気持ち良いいびきが聞こえてきそう、そんなはずないんだけど良く合ってます。

 

 

一生の白いかもめが飛んでくる

 

突然何の前触れもなくふっと来た白いかもめ、僕にはどうも現実のものには見えないんですよね。

 

 

この道の午前十時のすっぱきかな

 

すっぱきかなって!あーでもね、何かわかりますね、まだ短パンでうろうろして頃の感覚。あの頃は世界がもっと不思議だった気がします。

 

 

鶏頭をきざんであそぶ子供かな

 

やめなさい

 

 

べとべとのつめたい写真館があり

 

気持ち悪いだけじゃなくて、精神が拒絶するような怖さがありますね

 

 

憤怒して畳にもどる冬の蠅

 

蠅かよ、憤怒まで言うとなんだか可愛く見えます、波平みたいな。

 

 

銀の溶けたる冬眠に入る蝙蝠たち

 

麻酔で眠る時の感覚ってこんな感じですかね、銀の溶けたるとはお見事です。

 

 

愛の書がかさなっている水のなか

 

バイブルとかじゃ駄目、エロ本、いや、保健体育の本が良いかな、昔はなんで山や川にエロ本が落ちていたんでしょう。

 

 

螢ひとつ穴のあくほど迫りくる

 

何か強い意思を伝えに来ているかのよう

 

 

キリストの顔に似ている時計かな

 

時計かぁ、これ他に置き換えても絶対これより面白くならないと思います。

 

 

釣人のうしろ鶯きゃーと鳴く

 

絶対鳴かない

 

 

牛を飼い畠をつくる嫉妬深さ

 

何を考えてたら下五で嫉妬深さを閃くんでしょうね、非凡です。

 

 

人間を撲つ音だけが書いてある

 

べちこぉーん!とは書いてないと思うけど。忘れられない一句。

 

 

これはただ記憶喪失の水ぐるま

 

ただという二文字が効果的、じーっといつまでも見ていられるような水ぐるま。

 

 

かたつむり踏まれしのちは天の如し

 

有名な一句ですね、ぐしゃって音が聞こえてきそう、天の如しが実に見事

 

 

げに悪き鯉にならばやと思う教師

 

・・・先生、授業しましょ

 

 

永遠はコンクリートを混ぜる音か

 

違います

 

 

流れつくこんぶに何が書いてあるか

この句好きなんですよ、もう何言ってんだか、と楽しくなってしまう。

 

 

恋しげに鼻血は出ててきたりけり

 

恋心には鼻血の色がよく似合う・・・わけない。

 

 

蓮根は飛んでみたしと思ひけり

 

・・思わないよ

 

 

はりがねの最も苦痛なるかたち

 

はりがねが実に効果的ですね

 

 

足りなくて真夏のとんぼ生まれけり

 

足りなくて、との置き方が非凡、真夏にも命の力強さを感じます。

 

 

新聞をこがしてゆくや古来の火

 

この火も僕はなんだか現実じゃない気がします。文字が次々燃えてゆく静かなシーンが見えます。

 

 

ゆびずもう親ゆびらしくたたかえり

 

そりゃ親指ですから

 

 

ぼくの家が五六の蜂に愛される

 

逃げなさい

 

 

動物園の象のいちばん大き糞

 

ほんとうに力強い一句

 

 

わたしを見て昆布が立っているという

 

誉め言葉では・・・ないよね

 

 

ころがっているのは葱か愛情か

 

葱です

 

 

ひきだしに海鳥がきてばたばたする

 

これも大好きな句、ばたばたするが気持ち悪くて怖くて不思議でたまらんです。

 

 

青年と気持のわるい握手をする

 

こんな俳句を詠めるおじさんになりたい

 

 

ひとり惜しや惜しやと踏切番が言う

 

カフカの短編なんかにありそう、踏切番が不気味

 

 

四つに這い羊のまねをしてみたり

 

・・・働きなさい

 

 

つったっている憂鬱な汐干狩

 

あー、わかります、僕そんなんですから

 

 

青年のごとくに腹をこわしをり


自慢げに言う事じゃないです

 

 

とくどくど紹介させていただきました、僕は面白い句、びっくりさせる句、というジャンルではこれから先もずっと青鞋の句が越えなくてはならない壁として存在し続けるような気がします。
げらげら笑ってしまうような俳句、びっくりさせてくれるような俳句にはこんな素敵な壁があります。
わくわくするじゃあないですか。

 

 

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