ミスター零⑤

杉本零句集「零」
平成元年二月二十一日、杉本零遺句文集刊行会発

さてさてゴールデン街に来てはみたものの、村上さんはスースー眠っていて…。

くるっと氷を回しながら焼酎を飲みつつ場の空気を楽しんでました。

奥で一人で飲んでる綺麗なお姉さんは「夜の蝶」かな、なんとなく孤独で気だるい感じがする。後で入ってきた兄さん二人組、子分の方はずっと無口で兄貴分の方だけ喋ってるけど、どーも女の子の話しかしない、まぁそういう方がほんとは健全なのかもしれない…。

村上さん村上さん、そろそろ帰りましょうかね?

ゆさゆさ揺らすと、素直にすくりと立ち上がり

村上さん「それじゃあ、行きましょうか」

すんませんすんませんまた来ます、とか言いながら店を出て村上さんと歩いていると

村上さんがニコニコしながらビールケースを蹴るんです、わっ、何やってんすか、ちょっとォ…

なんて言いながらゴールデン街を抜けて村上さんとフラフラ歩いていました。

村上さん「二丁目に行こうか、あ、通りすぎてた、ま、いいか」

とわけがわからない村上さん、二丁目行ってたらとんでもなかったと思います。

村上さんが花壇のひまわりに興味を持ったようで…

村上さん「麒麟ちゃん、これ御覧なさい、風情がありますよ」
麒麟め「いや、だって枯れてるじゃないですか…」
村上さん「持って帰ろうか?」
麒麟め「ダメですよ、植えてんですから、イラナイですよ、こんなデカイの」

やがてタクシーに乗りビューっと浅草へ

村上さん家でヤフーオークションで買ったという芭蕉像を眺めて遊ぶ。
え?安っ、1400円ですかこれ、重っ、なんすかこれ!?あはははは、顔つきが若々しくて良いでしょう?
毎日ね、こう線香を…、けむたいけむたいですよ…、麒麟ちゃん、松原健之の新しいCDあげます。え?いやいや聞くんじゃないですか?三枚持ってますから。え、なんでですか!?応援しているんです。タハハ。

なんて少し遊んだ後村上さんとこですやすや寝て朝になって、村上さん家の本を勝手にペラペラめくり、気がすんだらそんじゃそろそろと帰ってきました。

帰り際に、これ、あげますと唐辛子を一袋もらいました。

えーと、なんだっけ、人生は回り道するが良し、みたいな話だっけ?違うか、まぁ良いや。

はい、杉本零の俳句を読みますよ。

なつかしき徹底的な西日かな

光が刺すような危険で懐かしい西日。肉屋でコロッケを買い、酒屋で酒を買うように懐かしい。

罪深き事を思ひし端居かな

やめちまおうか、やめちまおうか…、考えるだけなら自由です。男の端居はろくな事考えていません。

片蔭に頬ぶら下げてブルドッグ

好きでぶら下げてるわけじゃないけど

夕焼にみとれて希望無かりけり

すごく好きな句。「希望ありにけり」だとまったく救われない気がするのが不思議。良いんです、不幸でも、不幸のが美しい。ね、零さん。

みんみんにある憂鬱な拍子かな

わかる、歳時記の中のみんみんは楽しいけれど、実際僕は少し不安になる。

●写生文覗いて去りし秋蚊かな

藪蚊とかじゃなくて秋蚊を選ぶのが零さん。ユーモアに寂しさを添えるのが零俳句。あ、今良いこと言った、僕。

●音もなく紙切虫の躓ける

あの悪魔みたいな姿にあわれがある。昔お道具箱に入れて飼ったら昼には死んでいて恐ろしかったのを思い出した。

●子規祭り身の行末を思ひけり

生きていく事は辛い、それは言わないだけでみんな辛い。それでもたまには良いがあるのでなんとか暮らしていけるけれど、生きていかないといけない、という不安はとても怖い事だと思う。

●山茶花の落花をはがしはがし掃く

零さんが詠むと、蛾とかでなくてもこんなに迫力がある、力強くて美しくさえある。

毎日毎日、あー辛いなぁ、あー、しんどいなぁ、絶望的だな不安だな…、と思い詰めながらもアホみたいな俳句ばかりを作り続ける麒麟めですが、零さんの俳句を読むと、僕の絶望もほんとはもっとうまく俳句にできるのではないかとも思ってきました。ま、それはいつの日かで…。今はただただ素晴らしい零俳句を読んでいこう。

そんじゃ

ばーい