2013年7月13日

washing away
with absinthe
bacteria and brain cells

意訳:アブサンで洗い流す細菌と脳細胞

アブサンは、ヨーロッパ各国で作られている緑色の薬草系リキュール。苦艾、西洋茴香(アニス)、茴香といった薬草や香辛料を主成分としている。

この酒はあらゆる面で魅力的である。一つは、アルコール度数が(製造者によるが)70%前後と高いのに、(作者の場合)普通の量では二日酔いしないこと。日本酒やワインと違って、一時間程度で覚めてくれる。一つは、アルコール度が高いので、少量で満足できること。コスパが何と言っても良い。一つは、茴香系のリキュールが好きな人間には、恍惚となるような味わいがあること。一つは、そのエメラルド色が、水を加えると非水溶成分が析出して白濁すること。この色彩の変化が実に楽しい。一つは、アブサン中毒者のリストが「豪華」であること。ゾラ、ゴッホ、マネ、モジリアーニ、ランボー、モーパッサン、ロートレック、ヴェルレーヌ、ピカソ、ワイルド、ヘミングウェイ、クローリー等、19世紀後期から20世紀前期にかけて西欧の文化・芸術を牽引した人々ばかりである。一つは、中毒の理由がアルコールのせいなのに、苦艾の香味成分であるツヨンによるものだと長年信じられていて五十年以上も各国で製造が禁止されていたこと。1981年にWHOが、ツヨン残存許容量が一定量以下なら承認するとしたため、二十世紀末にやっと各地で製造が復活した。一つは、アブサンには、角砂糖に着火するクラシックスタイルの飲み方が存在し、なかなか格好良いこと。アブサン専用スプーンをグラスの上に渡してその上に角砂糖を置き、それをアブサンで湿らせて着火し、ミネラルウォーターを注いで消火し、最後に砂糖が溶けているアブサンスプーンでアブサンをよく混ぜる。視覚効果抜群である。それに、ガムシロップがなかった昔、こうやってランボーもゴッホもアブサンに砂糖を溶かしていたのか、と感慨深くなる。

これ以上、アブサンの魅力を書くと、ハイクの自解ではなく、ただの料理偏愛告白手記になってしまうので、句の方に話を移行させよう。技術的には相変わらず子音韻と母音韻の多様くらいである。内容の方も、今回は解りやすいと思う。アブサンくらい高いアルコール濃度の飲料は胃を洗浄するという迷信がある。発想はアルコール消毒の延長線にあるが、たぶん飲み過ぎれば、洗浄するどころか胃に穴が空くだろう。そして、脳細胞も確実に「洗浄」されるに違いない。都合の良い記憶だけ消えてくれればよいのだが。

ちなみに、作者の好きなアブサンの飲み方は、上記のクラシックスタイルの他に、「天国の階段」と「午後の死」がある。前者は、日本で展開している某パブ・チェーンで飲めるが(そこのオリジナル・カクテルかもしれない)、ショートのカクテルグラスに入れてあるフルーツ氷菓にアブサンを注いだものである。アルコール度数は68.0%だそうだが、全く感じない。氷菓が徐々に溶けていくので、カクテルも時間をかけて白濁していく。後者は、同名の闘牛解説書を書いたヘミングウェイが考案したカクテル。アブサンをシャンパングラスに注ぎ、それをよく冷えたシャンパンで割ったものである。こちらは一気に白濁する。喉越しが良く、猛暑にぴったりである(註:水分はきちんと別途補給してください)。