2013年7月18日

from a locknut
into a flat torus
now a donut

意訳:緩み止めナットから平坦トーラスいまはドーナツに

緩み止めナット(locknut)は、機械などの組立に使用される締結部品の一つであるナットの中でも、振動や回転力に耐える緩み止め型のもの。トーラスは、種数が 1 の閉曲面で、輪環・円環とも云う。代表的なトーラスは、円の外側に回転軸を置き得られる回転体、ドーナツ型(donut)である。平坦トーラス(flat torus)は、「フラットでもドーナツのよう」というべき摩訶不思議な形状で、円柱面を平坦なまま曲げて、両側の端を合わせ貼り付けることで得られるトーラス。四次元以上の空間でしか作れない。

掲句では、緩み止めナットから平坦トーラスに変化し、平坦トーラスから食べ物のドーナツ(もちろんドーナツ型トーラスであるリングドーナツ)に変形するのだが、数学的には容易である。ただ、三つの物体は材質が異なるため、物理的に無理がある。金属の緩み止めナットが、材質自由な(でも四次元以上の空間で存在しうる)平坦トーラスとなり、それがdough(小麦粉に砂糖、バター、卵、水などを混ぜた生地)を油で揚げたドーナツになるには、想像を絶するエネルギーが必要となる上、現代の科学力では不可能。ちなみに、donutは米国式の綴りで、本来の綴りは英国式のdoughnutである。

ドーナツの由来はオランダ説が有力である。ただし、それは生地を酵母で発酵させ、球状に揚げたものであり、現代主流であるリングドーナツ(ドーナツ型トーラス状)とは異なる。ただ、こちらのリングドーナツの起源については諸説あり、どれも珍説の域を出ない。専門社会調査士である作者としては、ドーナツが「起源」であるドーナツ化現象が興味深い。中心市街地の人口が減少する半面、郊外の人口が増加し、人口分布的に中心部が空洞化してドーナツ状になる現象である。

実は、作者はドーナツがあまり好きではない。食べるとしてもオールドファッションだけ。だから、今回はあまりおいしい話にならない。なぜこの話になったかと云えば、名前通り昔は幾何学が好きだった作者が、大学時代に履修した多変量微積分の試験にノスタルジーを感じたから。当時はまだ教わっていなかった平坦トーラスの式が出題されて、その表面積をいきなり計算する羽目になったである……世の中、何でもそうであるが、スリルある経験は記憶に残るものである。そして、平坦トーラスよりも重要なものは日々の健忘症のせいで忘却の彼方。すみません。