2016年6月6日

ソーダ水すべてもしもの話だった

6月6日

メロンソーダを上手に作るコツは、最初にできるだけたくさんの氷を敷き詰めること。そうするとバニラアイスと混ざって泡があふれてくるということもない。

高校生活最後の初夏に、へんな男の子に告白されて何度かデートをしたことがある。どうしてわたしのことが好きなの、と聞くと彼は「ちいさいから」と言った。なんだそれは。宇宙とハナ肇のことが好きで、電信柱のようにぼーっと背が高く、口数が少ない人だった。「国語の授業の”グループで話し合ってください”、が嫌すぎてずっと机の木目を目でなぞっていたら視力が落ちた」と言うがそのくせいつも裸眼だった。ひどく見えづらそうなので、眼鏡買えば、と言うと「人のことなんてはっきり見えないほうがいい」とぬかす。へんなやつだった。並んで歩く間、わたしは彼とまったく目が合わなかった。
2回目のデートで彼は屋台のお好み焼きを喉に詰まらせて激しく噎せた。落ち着いたところで、わたしが持っていた気の抜けたメロンソーダのペットボトルを差し出すと、彼は眉間にしわを寄せて言ったのだった「間接キスにふさわしくない」。わたしは怒った。わたしだっていちおう勇気を振り絞って差し出したのである。なんだよ、ふさわしくないって。じゃあ、どんな飲み物ならふさわしかったの。
元気なのだろうか。今どこにいて何をしているかも知らないけれど。