くびすぢのほこりきらめかせて昼寝
―――小津夜景さん、インタビュー 後編
賞を取って印象的な良かったこと、教えてください!
摂津賞の時は、書く場所ができたこと。具体的には「BLOG-俳句空間」に連載を持てました。裕明賞の時は、俳句とは関係のない人たちにまで作品が届いたことです。
それはそうと、今申し上げたことは、わたしが攝津幸彦や田中裕明の作品を事前にリサーチし、肌に合うことを確かめた上で応募したからこその感想であって、「わたしにとって賞とはどのようなものか?」といった一般性に広げられる話ではないです。自分と合っていない賞は、むしろ持たない方がおしゃれ。持ち物は、少ない方が軽やかですし。
たしかに、摂津幸彦・田中裕明の名のつく賞、うらやましいです…!
なにを持つか、なにを持たないか、賞にとどまらずスタイルの問題ですね。
そうですね。スタイルの問題として要約するなら、基本わたしは〈賞は要らない派〉です。『フラワーズ・カンフー』をあの構成にしたのも、そう思ったからでした。
漢詩超訳、短歌、散文詩、小説、エッセイなども盛り込まれた、いわゆる普通の句集ではない、本ですよね。
『フラワーズ・カンフー』は短歌が章立てになっています。つまりジャンル的には「句歌集」に相当するらしい。それで版元のふらんす堂からは面談やメールで「句歌集ですと、田中裕明賞やその他の『句集』を対象とした賞からは除外されてしまいますが、よろしいですか?」と入稿前の段階で何度も確認されました。でも賞のために作品を書くわけじゃないし、除外されてもしょうがないですよね? そんなわけで賞のことは頭の片隅にもなかった。
なるほど、そういう経緯があったのですね。
本が完成すると、はじめは世間から〈少し変わった作品集〉と思われたようなのですが、次第に〈句集である〉と認められるようになり、年末も押し迫ったある日ふいに応募の打診を受けました。いわゆる〈折り目正しい筋〉からの目を考えますと、版元は大変な勇気が要ったと思いますし、そのご覚悟に対しては本当に感謝しています。
『フラワーズ・カンフー』が受け入れさせる力のある句集だったのでしょう。この句集が受賞したことによって、俳句の世間なるものは広がったと思います。お付き合いいただき、どうもありがとうございました!
===
小津夜景 おづ・やけい 1973年北海道生まれ。
句集『フラワーズ・カンフー』(ふらんす堂)、ブログはこちらです。
◆次回は、高柳克弘さんにインタビュー