2011年8月7日

雨催はやくででこい冷奴

トップに使わせていただいている、松野画伯の絵をご覧いただきたい。この妖怪、「豆腐小僧」という。この春には京極夏彦氏の原作をもとに豆腐小僧の活躍するアニメ映画も上映され、それなりに好評だったらしい(映画の表記は「豆富小僧」、声優は深田恭子)。
「豆腐小僧」は、安永年間(1772~1781)に草双紙で人気者になった妖怪である。雨のふる夜、大きな笠をかぶり、お盆にモミジ印の入った豆腐をのせて現れる。紅葉豆腐は吉原の豆腐屋の名物だったらしい。特に何をするでもなく、無意味で怖くないところがウケたのか、知名度は高かった。ちなみに手許に資料がなくて年号が不明だが、小川芋銭の描く「豆腐なめ」なるお化けの図が、明治末の「ホトトギス」の表紙を飾っている。
「豆腐小僧」は、今のところ直接もとになる地域伝承は報告されておらず、印刷文化の中で創作された妖怪かといわれている。先日紹介した『狂歌百鬼夜狂』に続く、嘉永六年(1853)刊行の『狂歌百物語』にも兼題がある。

  精進の豆腐小僧を見世物師 山をかけてぞまたも化かすか  語免亭艶芳

参考.アダム・カバット『大江戸化物図譜』(小学館文庫、2000)、吉田幸一編『狂歌百物語』(古典文庫、1999)