2011年8月9日

月下美人片輪車と眼を合わす

鳥山石燕『今昔画図続百鬼』には、火につつまれた牛車の片車輪に女性が乗っている姿が描かれており、次のような詞書が添えられている。

むかし近江国甲賀郡によなよな大路を車のきしる音しけり。ある人戸の隙間よりさしのぞき見るうちに、ねやにありし小児いづかたへゆきしか見えず。せんかたなくてかくなん、「つみとか(罪科)はわれにこそあれ小車のやるかたわかぬ子をばかく(隠)しそ。」その女のこゑ(声)にて、やさしの人かな、さらば子をかへすなりとてなげ入レける。そのゝちは人おそれてあへてみ(見)ざりしとかや。

寛保三年(1743)刊行の菊岡沾凉『諸国里人談』にも同じエピソードが載っている。

ところが延宝五年(1677)刊行の『諸国百物語』には少し違う話が載っている。京の東洞院通りに「片輪車」が現れ、ある女房がこれを覗くと、車輪の真ん中に人の足をくわえた男の顔があって「自分の子どもを見ろ」と叫んだので振り返ると我が子の足が引き裂かれていた、という。石燕は同じ『今昔画図続百鬼』で「片輪車」に続いて「輪入道」という男の首がついた車輪の妖怪も描いており、これは『諸国百物語』に由来するらしい。

参考.鳥山石燕『鳥山石燕画図百鬼夜行全画集』(角川文庫、2005)、村上健司『妖怪事典』(毎日新聞社、2000)