2011年8月12日

猛暑日につき。木霊、休みます。

現代語でコダマといえばecho、山彦のことをさす場合が多いが、もともと「こだま」とは木々の精、山林の精霊のことである。『源氏物語』にもたびたび用例があり、「木霊などけしからぬ物ども」「天狗、木霊などやうのもの」などと表れる。これらの用例は、「天狗」「木霊」を似たようなもの、山林で「けしからぬ」ことをする「妖の物」だ、と認識している。

古木が怪異をなす例は多く、古く長谷寺の縁起では上流から漂着した楠の流木が疫病を流行らせたが、観音像を彫り上げて長谷寺に安置したという。ただしこの伝承には「楠の精霊」は登場しない。地域で語られる樹木伝承では、柳の精が男性の姿となって女性と交わったとか、榎木の巨木を切ろうとすると血を流したとか、現在でもその跡地をたどることのできる伝説が多い。妖怪図鑑の「木霊」の解説としてこのような樹木伝承を引いているものもあるが、古代の『源氏物語』に見える「木霊」は特定の樹木の霊ではない。とても漠然とした木々の精霊という存在なのである。
個別具体的な「○○の精」という存在が語られ出すのは、おそらく能の影響が強いのだが、詳細については今後の研究をまつしかない。