2011年8月17日

積ん読や耽読多読茶立虫

かつて所属する会誌に「月の晩小豆洗いも誘おうか」という句を出したことがある。そのとき「小豆洗い」を「虫の声」と解されて驚いた。調べてみると確かにチャタテムシの別称がアズキアライとある。古く、江戸時代の本草学者、栗本丹洲(1756~1834)の『千蟲譜』にも、アズキアライを茶立虫の類で紙窓にとまり赤豆を洗うような音をたてる、と紹介されている。

小豆洗いは小豆磨ぎ、小豆そぎ、小豆さらさら、小豆婆などの名で全国的に同様の怪異が知られ、柳田国男「妖怪名彙」にも記載がある。水辺で小豆を磨ぐような音がすることをいい、また化け物がそういう音をさせているともいう。なぜか小豆と決めつけるものが多いが、長野県では米磨ぎ婆の名が伝わる。

一方、チャタテムシは咀顎目に属する微小昆虫の総称で、障子などにとまって顎で紙を掻く音が茶を点てる音に似ているので名付けられたといい、古い紙や糊を食べるため書籍につく害虫という。誠に許し難い虫である。

季語には、「蚯蚓鳴く」のような生物学的に架空の季語も少なくないが、「不思議な音」を説明するために想定された原因として、妖怪の名も虫の名も伝えられてきたのである。

参考.村上健司『妖怪事典』(毎日新聞社、2000)、木場貴俊「夜の音―小野蘭山『本草綱目草稿』をめぐって―」『怪』vol.33(角川書店、2011.07)