2011年8月24日

実はみな狸であった秋の草

狐狸は人をたぶらかす妖獣の代名詞だが、「狸」という字は中国ではヤマネコなど野生の小動物一般をさしたらしい。日本でも『日本霊異記』の写本に「狸」にネコと訓ずる例があり、江戸時代になっても、たとえば『狂歌百物語』のネコマタは「狸」と表記される。
『今昔物語集』巻二十、巻二十七などに「野猪」が人を化かすという説話が載る。この「野猪」は「くさゐなぎ」と読み、タヌキのことらしい。漢文脈ではイノシシをさす野猪の例もあり、イノシシとタヌキは同じような認識だったようだ。「狸」表記のケモノの怪異譚は鎌倉時代の『宇治拾遺物語』『古今著聞集』で増え始め、室町後期の日記や絵巻物になると「狸」が人や鬼に化けたという話になる。これ以後「狸」はおおむねタヌキに統一されたと考えられるが、「むじな」「まみ」とも呼ばれアナグマとはほとんど区別されなかった。「むじな」は東日本に、「たぬき」は西日本に多い呼称らしい。

狸がなにをさすかはさておき、化け物としての狸がもっとも活躍するのは四国と佐渡である。この地域にはそれぞれ狐が棲息しない伝承が伝わっており、実際キツネが棲息しないらしい。そのためなのか、他地域では狐の仕業とされる怪異や別の妖怪の名がつく怪異(見越し入道やのっぺらぼうなど)も、すべて狸の仕業とされている。四国狸の活躍ぶりについてはスタジオジブリの名作『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994年公開)があり、巨大な陰嚢を振り回して戦う狸たちの勇姿をご記憶の方も多いと思う。

参考.中村禎里『狸とその世界』(朝日選書、1990)、池上洵一「野猪(くさゐなぎ)」『日本歴史』704(2007.01)