2011年8月25日

狐面つけて祭の帰り道

『日本霊異記』第二話は女に化けた狐と結ばれ子をなした男の話である。女は犬に吠えられて正体をあらわすが、男は「子までなした仲だ、いつでも来て寝よ」と呼びかけた。以来「来つ寝(キツネ)」といい、子は「狐直(きつねのあたい)」という氏族の祖となったという。

狐と結婚して子をなす話は昔話「狐女房」や、また安倍晴明の出生を語る「信田狐」としても有名である。そのため日本には昔から狐信仰があったと思いがちだが、『霊異記』の話は中国文化の強い影響下に作られたと思われる。中国では古くから狐は信仰され、また変化の術を心得ているとされていた。狐が化けた女性と結ばれる恋愛小説『任氏伝』もある。日本では中国文化の影響下に「玉藻前物語」(九尾狐。殺生石の伝説)などを生みつつ、さらに稲荷神のお使いと考えられたことで特別なケモノとする見方が盛り上がったようだ。

江戸に多いものは「伊勢屋、稲荷に犬の糞」といい、各地の大名屋敷でそれぞれ小さな稲荷社をまつるところが多かったようだ。それにともなって狐も多く、特に王子稲荷の装束榎は関東の狐が参詣のため衣裳を改めた場所とされ、大晦日の狐火が名物だった。むろん狐の話は各地に伝わっており、「化ける」ケモノの代名詞として現在も定着している。

参考.『いまは昔むかしは今③ 鳥獣戯語』(福音館、1993)、久禮旦雄「怪談考古学イヌ科ノ巻 古代編」『幽』vol.06(メディアファクトリー、2007.01)