2011年8月26日

川獺の牙おそろしき天の川

人を化かす動物というと、狐、狸、猫が有名だが、カワウソもよくしられた化け物だった。ニホンカワウソは乱獲によって絶滅したが、かつては北海道から九州までひろく棲息し、身近なケモノだったと思われる。水中を自在に泳ぎ、一見可愛らしげな外見と、魚をとって食べるときに見せる凶暴さとのギャップが、妖怪視されたことの原因らしい。

広島県ではカワウソが大入道に化けるといい、石川県では美女に化けて人を襲うという。あるいは河童と同一視するところもあり、四国のエンコという呼称は河童のような妖怪も動物としてのカワウソも区別しないという。現在「河童の手」と伝わるものが各地に残されているが、カワウソの前足であることもあるようだ。カワウソの怪異は古くは中国の『捜神記』にも語られており、中国、韓国でも知られている。日本では狸と同様、ほかの化け物の「正体」と語られるパターンや、他地域で狐の話とされるものの代役をつとめることが多いようであり、狐のように単独で神獣、妖獣とされた形跡はうかがえない。おそらくカワウソの妖怪が普及したのは、狐よりも後発だったのではないか。

参考.増子和男「獺妖怪キャラクターの盛衰―日中比較の立場から―」『アジア遊学』130(2010.03)