蚊火を焚く闇に小さく屈まりて   川島葵

蚊取り線香に近づいて火を点けるまでの、不思議な緊張感。
まだ、火を焚いていないので、周りには普通に蚊がいるだろう。
「蚊火」から溢れる白い煙と僅かな火によって、闇は闇でなくなってしまう。蚊も離れる。
「蚊火」が焚かれるその瞬間から、じわじわと、確実に、世界は変わってしまうのだ。
あえて「小さく」と書くことによって、屈まる姿の、不安定で心もとないようなかたちが見える。
変わりゆく世界の中で、屈んでいる自分だけが取り残されてゆくようだ。
そんな自分も、じきにすっと立ち上がり、変わりゆくもののひとつとなるのだけれど。

『椋 41号』(椋俳句会、2011.8)より。