2011年8月27日

秋蛍とらえて食べるぬらりひょん

ぬらりひょんはもともと「ぬらりくらり」と同じような意味で、ぬらりひょんとした正体不明の化け物だからぬらりひょんという。江戸の化物絵巻にしばしば名があり、後頭部の発達したハゲ頭の老人姿で描かれる。また、元禄十六年(1703)刊行の浮世草子『好色敗毒散』には「その形ぬらりひょんとして、たとへば鯰に目口のないようなるもの、あれこそ嘘の精なれ」とあり、ノッペラボウのようでもある。岡山県では海坊主の一種をヌラリヒョンといい、捕まえようとするとヌラリと沈んでヒョンと浮くからそういうらしい。

鳥山石燕『画図百鬼夜行』には頭の大きな老人が家に上がり込もうとする図が描かれているが、詞書はなくどのような妖怪か不明である。また風俗史学者であった藤沢衛彦の『妖怪画談全集 日本編』(中央美術社、1929)には石燕の絵とともに「まだ宵の口の灯影にぬらりひょんと訪問する怪物の親玉」と解説があるが、おそらく絵から想像した創作であろう。佐藤有文『日本妖怪図鑑』(立風書房、1972)には、忙しいときに家人に気づかれぬよう家に上がり込んでくる、と解説され、これらを水木しげるが取り入れたことで、ぬらりひょんの属性が広まったようである。現代でも多くの漫画や妖怪図鑑に登場し、俳句でも多くの作家が、ぬらりひょんを詠みこむことに挑戦している。

春朧ひょんなところにぬらりひょん  わたなべじゅんこ
ナイターや二重予約はぬらりひょん  すずきみのる
ぬらりひょん糸瓜は風にたぢろがず  太田うさぎ
ぬらりひょん へくそかづら の か に にほふ  高山れおな

参考.京極夏彦・多田克己・村上健司『妖怪馬鹿』(新潮OH!文庫、2001)