初しぐれ端切れは色をあらそひぬ   太田うさぎ

繊維街の、あざやかさと独特の湿り、薄暗さを思う。
大きなロールとなって何メートルいくらで売られる布の脇に、
ワゴンの中でひしめき合う端切れ布。まさに「色をあらそ」う雰囲気である。
これから何に作られていくのだろうかという希望よりも、
短いスパンの手に取られたいという希望。だからこそよりあざやかに色があふれだす。
「初しぐれ」と「端切れ」の音が響きあい、
雨に閉じ込められてしまったような街の静けさを感じさせる。

『唐変木 7号』(2011.6)より。