2012年9月15日

手鏡を螺鈿の蝶が抜け出す夜

かつて役人が働いて一番活気があったといわれる首里城・北殿。沖縄サミットの晩さん会にも使われたらしく、当時の各国首脳がパネル写真で紹介されている。中でもプーチン首相のどや顔はなかなか印象深かった。斜めに構えて、カメラを見上げるように微笑んでいる。ああ、カメラにおさめてくればここでお披露目できたんだけど。

北殿にはミュージアムショップがあって、首里城のオリジナルグッズや沖縄の伝統工芸品などが売られている。中でも心ひかれたのは、螺鈿の琉球漆器。貝殻の内側の虹色の部分を薄く研磨したものを、いろいろな模様にカットして、漆地にはめこんである。そういえば、さっき公設市場で夜光貝について聞いたとき、お店のおばちゃんが「螺鈿の材料になるのよ」と教えてくれたのを思い出した。あの大きな貝が、この螺鈿細工の材料なのか。頭の中で、ぱちりとピースがつながる。

朱塗りの手鏡や小皿に、小鳥や蝶の螺鈿細工がほどこされている。手にとるとしっとりと重い。中に、黒漆に双蝶の細工の手鏡があった。細工を見たあと、裏返して鏡をのぞきこんだとき、ふと「今うらがわにいる蝶はもう、どこかへ行ってしまったかもしれない」という思いにかられた。細工の蝶があまりに美しくいきいきとして見えたからだろうか。もういちど手鏡を裏返して、細工のある背の面を見遣ると、蝶はふたつともそこにあった。