2012年9月22日

瑠璃揚羽巨岩盲いて幾星霜

さらに車を走らせて、斎場御嶽(せいふぁーうたき)へ。かつての琉球王朝の聖地で、現在は首里城とともに世界遺産に登録されている。台風が近づいてきているからか、訪れている人も少ない。うっそうと茂った森の中へ足を踏み入れると、木々を荒々しく渡ってゆく風の音が、ここは聖地だと告げてくる。その風はまるで、大いなるものが双手を広げて森を掠めていくようだ。

我々の前に一頭の蝶があらわれて、ときどき空中で立ち止まりながら、進むべき方向へと導いてくれる。「ほら、こっちへおいでって言ってるみたいだよ」と興奮する一行。蝶の意思を信じさせてくれるような雰囲気が、斎場御嶽にはあるのだ。

森の中にはいくつかの斎場があって、そこは祈りを捧げるにふさわしい巨岩がそびえたっている。岩の視線を全身に感じながらその裡に座す心地はいかなるものだろうか。想像するだけで、自分が丸裸にされた気がする。巨岩同士がぶつかりあっているその下をくぐりぬけると2メートル四方ほどの小さい空間に出ることができ、そこからは海と島が見えた。その島は久高島といって、海のかなたの異界・ニライカナイへと通じていると考えられてきたそうだ。この小さな空間に立てば、ニライカナイを望むことができる……そのようにして人々に連ねられてきた祈りの鎖に私もひととき心を重ねてみる。

「今、ここ」よりも素晴らしい場所がこの世界のつづきに存在すると考えることは救いになるのだろうか。島のかなたの海光の美しさに目を奪われながら、私のニライカナイはそこにはないような気がしていた。