長き夜の平面として在るシーツ
食欲はないけど、昨日一階から取ってきたタルトをみかんジュースで飲み込む。味はよくわからない。
電話もネットも繋がらないとわかってから鞄に入れっぱなしにしてた携帯をひさしぶりに開いた。電源が切れてた。電源ボタンを押したら一瞬画面が明るくなって、ピーッって鳴ってすぐに消えた。電池パックの蓋の裏側には、塁くんとふたりで初めて撮ったプリが貼ってある。「るい&あんな」って塁くんのへたくそな字。
中学生の頃は、麻里としょっちゅうプリ撮ってた。あの頃パパが撮った写真より多いかも。パパ、ママ、麻里。きっとみんな心配してる。早く帰りたい。
ふと思いついて、廊下の台車からシーツを取ってきた。塁くんの鞄の中を探したら、サインペンが出てきた。SOSとシーツいっぱいに書く。細すぎる……。
シーツを抱えて屋上に出た。細長く畳んだシーツそのものを線にして、屋上に大きく「SOS」を書いた。
強風が吹いたら飛んでしまいそう。でも、ここに救助を待っている人間がいることは伝わるはず。真っ青に晴れていて、雲がうんと上のほうにある。運動会の日の空だ。
犬がはげしく吠えていた。遠くで銃声みたいな音がした。
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