神野 今日は、「週刊俳句」の運営をされている、西原天気さん・上田信治さんをお迎えして、2012年一発目の「よみあう」をやりたいと思います。よろしくお願いします。
西原 よろしくお願いします。
上田 遅れてすいません。
野口 本業の締め切りが昨日、だったんですよね。まにあったんですか?
上田 結局今日の16時まで、かかってしまったんですが、なんとか。
神野 そうそう、おふたりをお迎えして…といっておきながら、ここは天気さんのお宅です。(笑)
江渡 お邪魔しています。(笑)
野口 「週刊俳句」は、2007年4月に創刊されたウェブマガジンで、既存の結社・同人・俳句雑誌を基盤とせず、現在は月に5万アクセス以上をほこる…
神野 週刊俳句編『虚子に学ぶ俳句365日』(草思社)の、説明のところだね。(笑)この「スピカ」のサイトを読んでくださっている方なら、「週刊俳句」を知らないひとはいないでしょう。ネットにおける俳句ウェブマガジンといえば、週刊俳句。これはもう、定着してると思います。今日は、その、週刊俳句を運営するおふたりの推薦句について語り合うのはもちろんですが、そのほかにも、いくつかお話うかがえれば。
野口 たとえば去年、「週刊俳句編」と冠した本が三冊でました。『虚子に学ぶ俳句365日』(草思社)、『子規に学ぶ俳句365日』(同)、そして『俳コレ』(邑書林)。ウェブを場としていた週刊俳句が、書籍を出すというのは、驚きでした。三冊の製作秘話や、『俳コレ』の魅力、「週刊俳句」という媒体のこれからについても、自由にお話いただければ嬉しいです。
江渡 天気さんの句集『けむり』(西田書店)についても聞きたいな。
(天気さんの奥様ユキさん、お料理を運んできてくださる)
ユキ どうぞ!
野口 ありがとうございます。わあ、ピクルス。てづくりですか!
ユキ これも。これね、アタリマエダのクラッカー。
江渡 ははは!
神野 ええー、ほんとに?
神野 ギャグでしか知らなかった、アタリマエダのクラッカー…。
江渡 美味しそう。
西原 あと、添えてあるのが、ブルサンの、いちじくとか入ってる…
野口 期間限定なんですよね。
ユキ あ、やっぱり知ってる?
西原 このクラッカーとの組み合わせが最高。僕のいつもの昼ごはん。
野口 かわいい・・・。
神野 それでは、つまませていただきながら、まずは信治さんの推薦句、お願いします!
たんぽぽや胸ポケットが両方に 沼田真知栖
(『光の渦』ふらんす堂 2011年9月)
上田 年齢は僕より5つ上の、「萬緑」のかたです。句会でお目にかかって以来、かねがね実力者だなあと思っていました。とくに俳壇で有名という方ではないんですが、こういう知られてないけど面白い人が、あちこちの結社や句会におられるんだろうな、だとしたら嬉しいな、というようなことを、「年鑑」なんか読んでると思います。この句集は、まだあまり取り上げられていないようなので、是非と思って持ってきました。
西原 性別は?
上田 男性です。数学の先生だそうです。
神野 俳号、数学のmathematicsからきてるんですよね。
上田 日本アルバン・ベルク協会の会員でもある。
江渡 なんですか、それ。
上田 現代音楽の作曲家ですね。
江渡 協会って、なにするんだろう(笑)
上田 演奏会をひらいたり、普及や研究につとめているようですよ。趣味のいい人だなー、と。えーと、沼田さん本人の情報は、これくらいにして。いや、しゃべって一句紹介するの難しいですねえ。この句集、「萬緑」らしい、というほど知っているわけではないんですけど、ベテランの多い結社らしい、リフレインの手法だったりとか、普通の人の気持ちを共感性豊かに書くといった句もあるんですが、ちょっとヘンな句もあって、当然ぼくはそちらに、引かれてます。
西原 ちょっと句集、見ていいですか?
上田 (手渡して)いわゆる俳句らしい俳句もあるんですけど、そこからはみ出していくような句が面白いんですね。
西原 第一句集ですね。
上田 「蠅叩吊るして蠅の来ぬやうに」。おまじない扱い、っていうね。蠅捕紙でもいいんですけど…。
西原 でも、蠅叩きのほうが、よりへんてこりん。面白い句ありますねえ、「宇都宮餃子は月へ行く船か」。
上田 ああ、そんなんありましたね(笑)
西原 かと思うと、順当な句も。「寺町ののぼる坂道十三夜」。十三夜の付け方もごく順当。
神野 ところで、挙げてもらった「たんぽぽ」の句は…。
上田 えーと、胸ポケットが左右両方にある服。シャツか上着か。会社に着ていく服ではない。
そんなおしゃれなシャツじゃないような気がする。ダンガリーシャツとかなら、まあ、ちゃんとしたデザインの内ですけど、ひょっとしたら、すごい野暮ったい、よけいな仕事がしてある服かも。
江渡 うんうん。
上田 で、それが「たんぽぽ」であると。休みの日とか天気のいい日に外に着ていくような服に、胸ポケットが両方にある。それを楽しいこととして、この人は発見している。なおかつ、あからさまに面白がっていなくて、むしろそのことを面白がっていいのかどうか分からない、というふうでもある。そのくすぐったいところに触れている面白さがあると思いました。
神野 男の人の服?
上田 女の人のでもいいでしょうね。
江渡 「たんぽぽ」っていう季語から、おしゃれさよりも、散歩の普段っぽさが出ていて、かわいいですよね。
神野 ジャケット脱いだ感じなのかな、と思いました。上着をはおっていて、散歩に出て、歩いてあったかくなってきて、上着を脱いだら、胸ポケットがふたつあって、胸を見た視線が落ちたそこにはたんぽぽがあって、うふ、みたいな。
江渡 うふ(笑)
上田 あるいは、かねがね、「この服はなぜ胸ポケットが二つあるんだろう」という服を自分で着て出てきてしまっている、と。そんなにすごくいいとも思っていない服を、また着てる。
西原 自分で着てるの?
上田 自分もありだと思います。
野口 散歩に行って、ポケットに入れたいものがあったんじゃないですか。
江渡 たんぽぽとか?(笑)
野口 小さいもの。あ、こっちにも入る!って。両方入って嬉しい、って。
神野 私は「両方に胸ポケットがあるってなんかヘンじゃない?どう思う?」って、この句に言われてる気がして、ちょっとした「あるある」の面白さを感じました。ポケットが胸にふたつあると、妙に、からだのつくりときちんと対応していて恥ずかしい、って気がする。
上田 フラップとかついた…
神野 「たんぽぽ」がいいですね、さりげなくて。
上田 そう、告発してない。「ああ、二つあるな」ってところに話がとどまっているところがいい。
西原 平和な風景になるよね。
上田 日曜日だな、みたいな。
江渡 特に何もない、休日のお散歩って感じ。題材としては面白そうなものを持ってきているのに、そしてそれを面白がってもいるのに、「面白い!」って言いきってないところがいいんじゃないでしょうか。「たんぽぽ」もガーリー。
野口 「や」で切って、「が」「に」と助詞が続く感じは、気にならなかったですか?
上田 え、ぜんぜん気にならないです。
野口 ちょっとうるさいかな・・・。でも、それが“ふたつ感”を出す効果があるのかも。
神野 無造作な助詞の使い方で、ナチュラル感を出してるのかもね。あんまり作り込んでないですよ、この句は、っていう。
上田 日常語、ってことですよね。
西原 凝ればいろいろ入れ替えられるでしょ、推敲もできるでしょうけれど、これが一番セリフっぽくなる。
神野 “気づき感”。
上田 あとはね、こんな句も。「販売機のみの煙草屋冬の雨」。
西原 それ僕も、さっきめくって気になってた。
上田 好きですね。煙草屋さんこないだまで確かにやってたのに、自動販売機だけになっちゃって…。
江渡 「冬の雨」だからなお。
上田 なお。中に寒そうなおばあさんがいるんじゃないか。
西原 ただ、その題材に「冬の雨」って持ってくるのは安易っていう人もいるでしょうね。。もうちょっと凝ってもいいような。
上田 普通の人事句になってるのかな。
西原 でも、面白いと思いましたよ。
上田 あとは「単純に赤ならイチゴ氷水」とかね。
神野 ん?どういうことですか?
上田 見た目が赤だったら、イチゴなんだろうな、っていう句です。
江渡 赤ければイチゴなんでしょ、ってこと?
上田 「赤ならイチゴ」って、むかし明治屋の人か誰かが決めたんだよな…ってことかと。
西原 「氷水」で赤っていったら、もう0.1秒くらいで「イチゴ」って反応できるからでしょ。西瓜とは思わない。赤とイチゴが直結してる。
上田 こういう何が嬉しいのかよく分からない楽しい句を、たくさん読ませてもらいたいな、ということで、期待をしています。
(次回は、野口る理の推薦句をよみあいます)