蛍来よ彼女の読書妨げよ   野口る理

美しい句である。と同時に傲慢な句である。薄命な生物である螢を呼び寄せ、「彼女」の読書を妨げるのに遣わせる。しかしその傲慢さは、仕方のないことなのだ。きっと「彼女」の読書は、螢でも来ないことには誰にも暇を差し挟むことのできないほどの営みなのだろう。一心不乱に本を読むことのできるのは若さゆえなのだと、僕は最近自分の体で悟った。作者の中でもそれが同じなのかどうかはわからないが、僕の中では「彼女」は若い、もしかしたら幼いくらいの存在で、その「彼女」がふと顔をあげて螢を発見する瞬間は、きっと何かが失われた瞬間であり、すなわち、とても美しい何かであるはずである。

「彼女」(2012.07)より