傾けてかぼちやスープや三日月形   榮猿丸

丸いスープ皿に丸く鎮まっているかぼちゃスープ。
もう残り少ないのだろう、傾けるとスープが下に集まって、それが「三日月形」になる。
かぼちゃのとろみのある深い黄色と月の色の優しさがよく響きあう。
かぼちゃスープを傾けると言うのではなく(行為としてはそういうことなのだけれど)、
傾けてからこれは「かぼちやスープ」であると認識し、
「や」で一拍置いて、さらに「三日月形」を見せるこのレトリックが楽しい。
そして、スープ皿を平らな所に置き(それは即ちこの句を読み終わり)、
たっぷり入っていた満月の頃、そして近づく無月へも思いを馳せていくのだ。

「呟く男」(『ふらんす堂通信 141号』ふらんす堂、2014.7)より。