群咲いてゐて鬼百合のまだ足りず   藤井あかり

「鬼百合」は、オレンジ色に茶色い斑点のある花びらが少し不気味な花だ。
背丈も高く花も大きいこの「鬼百合」が「群咲いて」いたら、とても迫力があるだろう。
それでも、「まだ足りず」なのだ。
この足りなさは、花がどれだけ群になっても埋まらない。
そもそも、何をもって満ち足りた状態なのかが分からなくなってきている。
可憐な花ではなく、むしろ一輪も要らないような「鬼百合」だからこそ、
このもやもや感だけが際立ち、ざわざわとした余韻が残る。

『封緘』(文學の森、2015.6)より。