君がため年越蕎麦のだしを取る   田島千翠

きちんと蕎麦の出汁を取ろうと思うと、それはなかなか大変な作業である。
銀座のあるお蕎麦屋さんの手伝いをしたことがあるが、
たとえば、かけそばには血合いの入っていない鰹節を使い繊細に仕上げ、
天ぷらそばなどには血合いも入っている鰹節を使いコクを出す。蕎麦によって出汁が違うのだ。
掲句。恋の句と読みたい。
恋人と一緒に、これまでを振り返ったり今後を考えたりしながら、今年最後の日を過ごすのだろう。
年越蕎麦を丁寧に作る。そのことがこうして一句となると、いつしか余計に愛おしいワンシーンとなる。
文体のかたさが、内容のささやかな幸福感をこぼすことなく受け止めている。

『梓 2号』(梓俳句会、2011.4)より。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です