ふるさとのやまなみに似し毛虫かな   興梠隆

「ふるさとの」と始まる句を見ると、少し身構えてしまう。
それはあまりにも個人的だったりはたまた一般的だったりと、
作者のナルシシズムを思い、読者として距離を置いてしまうからであろう。
しかし、掲句は、そのような距離なく楽しむことができる。
故郷の「やまなみ」を「毛虫」に見立てるという豪快であり繊細な把握。
単純に害虫としての「毛虫」と読み、故郷への苦い思いを託しているとも読めるが、
「毛虫」を見ていても、なぜかふと故郷を思い出すという、故郷への慕情をも感じる。
山ではなく「やまなみ」と読みきったところも、毛虫の質感をしっかり捉え、
また、故郷の景色も見える。さらにその景色には作者も読者も共在するようだ。
この「ふるさと」は、作者の個人的、特殊的な「ふるさと」であり、
また「ふるさと」という概念そのものの一般的、普遍的なものであり得るバランスの良さがある。

『背番号』(角川書店、2011.7)より。

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