しみじみと見て鶏頭を切らざりし   井上じろ

「鶏頭」の独特の力強さと、それを「しみじみと」見ている人の脱力感。
鶏頭が咲いているからといって、切ることのほうが少ないだろう。
しかし、あえてこのように「切らざりし」と言うことによって、
鶏頭の不思議な獣感(鶏の頭、というくらいではあるが)がより際立ってくるようだ。
不条理でもなく特殊でもないふつうのことなのに、どこか不思議な気持ちにさせられる。

『東京松山』(マルコボ.コム、2012.1)より。