吹かれ来し野分の蜂にさゝれたり   星野立子

「野分」の強い風の中を吹かれてきた蜂。あっ、蜂だ、と思った次の瞬間、痛みが体に走る。
意志もなにもなく吹かれているものと思っていたものに、刺されるという驚き。
風が吹くと風に吹かれた蜂がこちらへ来て私を刺す、という流れが、
とても自然で、そのこと自体に感動している。
あたかも「野分」という場所があるかのようにさりげない「野分の蜂」というフレーズが巧みだ。
この句に添えられた岸本尚毅による鑑賞によると、
資料によっては「さゝれけり」となっているものもあるそうだ。
岸本は「無造作な良さがあるのは『たり』」「句柄が大きいのは『けり』」だと述べている。
私は、「けり」だと少し怒りが感じられるので、どこかぽかんとしている「たり」のほうが好きだ。

岸本尚毅著『虚子選ホトトギス雑詠選集100句鑑賞[秋]』(ふらんす堂、2011)より。