「仙台につく、みちはるかなる伊予の我が家をおもへば」と前書き。
「あなた」とは、彼方のことで、ふるさとの伊予のことを静かに思っているのだ。
風景をたぐりよせて近づいてゆくような抒情がある。
そしてこの「あなた」は、貴方という意味にも重ねて読むことができるだろう。
叔母梅子への思慕だと読まれることも多いが、それをはなれても読者の内の「あなた」と重なってくる。
なにより、A音の連なる韻律のなめらかさがなんとも快感で、口ずさんでいたくなる一句。
不器男はいつも面白いことを言って周囲を笑わせていたそうだ。
たとえば、禿頭はハエトマルトスベール、袴はスワルトバートル、というインチキ外国語を披露したり。
そのことを思うと、美しい韻律の作品たちも、言葉遊びや洒落からくるものなのかもしれない。
ひたむきさや闘病のイメージになりがちの不器男だが、明るく快活な性格も彼をかたちづくったのだろう。
坪内稔典・谷さやん編『不器男百句』(創風社、2006)より。