第一話「君は宇宙を感じたか」(『宇宙』青畝句集刊行会、1993年)
先日尊敬する先輩俳人のお宅にお邪魔して、三十も近い麒麟です、辛い事もありまして、泥酔しながらおいおいとわめいておりましたら、可哀想にと、優しき先輩俳人のMさんが、なんと『阿波野青畝全句集』をくださりました。泥酔状態でありながらひとまず僕はそれをこそこそ鞄にしまい、その後パタンと眠りの国へ入り(ごめんなさい)、翌日はこの世の終わりのような二日酔いの中、鞄を抱いて会社に行きました。ちなみに昼までトイレに籠ってました(またまたごめんなさい、一応言っておきますが日々は真面目に勤めております)。
さて、青畝、俳句は抜群に面白く、有名な作家なわりには句集は『萬両』が圧倒的に有名で、『あなたこなた』や『西湖』『宇宙』なんてどうですか?ピンとこないのではないでしょうか?そこでこのたび、飲みすぎない事を天に誓い、生まれ変わった麒麟は敢えての『宇宙』(最後)から読んでいきたいと思います、では、いざ出発!
『宇宙』
句帳へとメモより写す去年今年
一句目から素晴らしいですね、もうこれでもか!って言うぐらい何でもない・・いつまでも食べ続ける柿ピーのごとく味わい。
初雀かつらぎ庵をぺちやくちや言ふ
あぁ可愛い、雀が人間の子供達のようですね、これ初の一字が明るくて見事にめでたい。
一つ一つ鬼の豆をば拾ふ鳩
一つ一つと言う表現で鳩の動きが見えるようですね。
うかれ男の夜這の道よ蕗の薹
うかれ男かぁ~。そして蕗の薹かぁ。
春の霜もぐらのからだあたたかに
こりゃまた可愛い、本物のもぐらというより絵本の中のもぐらのよう。
屑籠は句短冊のみ花の宿
俳人として最も幸せな時間ではないでしょうか、こんな晩年ならを迎えてみたいな。
穴を掘り又穴を掘り稀に馬刀
明日もなんだか生きていこう、と思わせてくれる句。
補聴器がぴいぴい衣更ふるときに
これは有名な句ですね、ぴいぴいが絶対動かせないです、他に何も置きようがないと思いますね、見事なぴいぴい。ぴいぴい。
キッチンが整頓しすぎ明易し
くつろげないんだってさ。スラッと作った句なんでしょうね、僕はこういう句が好きです。
ががんぼ再生の足有りや否や
格調高く言ったって否よ
チョークにて引つ繰りかへす甲虫
青畝翁が甲虫と遊んで、足がもぞもぞ動くのをぼーっと見てる様子が楽しい。
黒金魚ファッションショーが来る如し
たっぷり太った黒い金魚のひらひら感がでてますね。
極楽の文学と別河童の忌
別って!こんな言い方もあるんですね、確かに芥川は極楽の文学ではないですね、でも青畝翁、実は芥川好きそうじゃないですか?
孕まざる鮭はぶんなぐられにけり
ぶんなぐられにけり!?ん?ぶんなぐられにけり!?ふんがー!って?
肩のへん軟らかすぎるちやんちやんこ
「肩のへん」が自由過ぎる表現で素敵。
日々落ちてかつらぎ庵の柿は駄目
残念!
バレンタインデー青畝日記は記録なし
あ、青畝翁チョコ欲してる。
鶯や句碑入魂のとき叫ぶ
ダー!ってね 叫ぶらしいですよ。
目刺の目けむりを吐いてもう焦げぬ
なんにでも限界はある
今日の忌の虚子を専ら諷詠す
大事な事よ
ぺちやんこの財布で競馬賭けてゐし
良いなぁ、オダサクの小説みたい。
石鼎の袖袂より螢かな
石鼎には螢がよく似合いますね、はかなくて、激しくて。
釣れし鮎をバーベキューの華となす
「華」ともってきたところが見事。青畝翁とバーベキューやってみたいな、あくまで想像ですが、きっとなんとも良い笑顔なんでしょうね。
いたづらな一夕立よバーベキュー
あ、青畝翁怒りました?
ギャルどもも寝しづまりをりキャンプかな
さぁ、こっからが本番だぜ。「席題やる人~?」「はーい♪」
冷蔵庫横列したるビール見よ
・・・飲んで、良いんですか?
閻王の秤メートル法なりや
たぶん。
レーニンが横倒しされ三尺寝
笑って良いのやらよくないのやら、青畝翁、攻めるなぁ。
コーヒーを飲みに出るのが避暑散歩
てくてくという足音が聞こえそう
紙魚我を畏るる勿れ山家集
紙魚「無理っス」
肥ゆる紙魚竜之介忌を知らざりし
紙魚「知らねっス」
養命酒ちびちび舐めて居待月
長生きの秘訣、みんなちびちび舐めましょう。あ~、居待月ってこんな風に使うのか、と感心した句
一回転せずに音立つ添水かな
無心で見ていたらこういう句が浮かぶのかなぁ。
鉛筆をなめ書き付けぬ鹿火屋守
そして時々銅鑼を打つ
一の鹿叫び二の鹿何もせず
えー、二の鹿、無気力・・・
息白しポイ捨て御免合点だ
街中にこの句碑を
鮟鱇の鼻からも出るよだれかな
もうどうしようもない
かまくらへ運ぶコーヒー熱きかな
なんでもない句なのに、なんとも美味しそう。そして覚えちゃいますね。
如月やビデオテープの店ばかり
そんなわけない
雲丹の針大団結の不動なる
これぐらいじっと見てみると雲丹も面白い
手帳みな十七字詩や囀れり
十七文字やではないんです、十七字詩、詩人としてのプライドですね。
横つ腹から水を噴くそんな滝
どんな滝かよくわかる
によつぽりと俳画集成り今日の月
ん?によつぽりって?わかんないようなわかるような、ちょっと可愛いような。
秋風や空瓶並ぶ養命酒
また出た、養命酒!秋風がなんとも言えない。
もう出たか1993の初日記
これが青畝最後の俳句です、見事ですね、希望に満ちてませんか?
最後にこんな話、僕が勝手に尊敬してるある俳人の方が以前こんな事を仰っていました。
「あー、青畝ですか、青畝は面白いです、早い段階で青畝を読んで、この方向では勝てないと悟るのが、早道ですね~」
青畝はそれほど面白い、ちなみにこの俳人の方は現役俳人の中で僕が一番面白いと思っている俳人です。誰かは秘密。
では青畝全句集、続きはまた飲んでない時に!
(了)
One thought on “アワアワあわのせいほかな 第一話(『阿波野青畝全句集』花神社、1999)”