2011年8・9月 SST×スピカ (榮猿丸×関悦史×鴇田智哉×神野紗希×江渡華子×野口る理)
桃の在るのは人生のちょつと外 奥坂まや
(句集『妣の国』ふらんす堂・2011年6月)
榮 やっぱり、この句を、背表紙に持ってきたっていうのがね。
野口 いや、でも、これたまたまだって聞きました。装丁の関係でそうなったって。
榮 あっ、そうなんだ…
野口 私も、背表紙にあるってことは、すっごい一押しの句なのかなって思ってました。
榮 思っちゃうよね。
鴇田 本棚に入れたら、その句が見えるわけだからね。
神野 でも、意図がどうであれ、結果的に本としては、その句を推してるつくりにはなってる。
榮 トッキーはこういう句、どう?
鴇田 え、いきなりオレ?
江渡 マルサルさんの推しのコメントは?
榮 「人生のちよつと外」っていうはずし方がおもしろいね。この感じ、分からなくないなって。あと、背表紙になってる。
江渡 そこ?!
野口 作者であるまやさんの推しだとしたら間違いない、っていうこと?
榮 違います、違います。でも、本屋の棚に並んでるとこの句が本のタイトルとして見えるよね。そう見ると、とてもキャッチーで、不思議さもあって、「背表紙に映える句」というのがおもしろいなと。本のカバーに全部で15句並んでいますけど、ためしに他の句を背表紙に持ってきても、しっくりこない。そういうおもしろさのある句です。
鴇田 うーん、やだな、この句は。桃っていう象徴が分かりすぎちゃうし、「人生」っていうまんまの言葉も使ってるし、分かりすぎちゃってなあ。言いおおせてる感じだよ。
榮 うーん、そういうところはあるかもしれない。
神野 この句だと「ちよつと」が面白いですね。桃っていう、象徴性の強いものに対して「ちよつと」って微妙なところもってきたのが、意外です。
榮 「ちよつと」がいいよね。
神野 この桃は、リアルな桃でしょうか。それともメタファーの桃なのかな。
榮 リアルな桃だと思いました。
神野 でも、メタファーも入ってきますよね。「人生」っていう語と、一句の中で一緒にあると。その、桃のメタファー性を受け入れられるかどうかってところが、好き嫌いわかれるところでしょうか。
榮 リアルな桃と、人生っていう抽象的な言葉との組み合わせが、意外性もあるかなって思ったりもしたんだけどね。桃という存在のいじらしさも感じさせて。でも、紗希ちゃんの言うとおりだね。メタファー性込みで、好きです。ぼくは象徴性の強い俳句って苦手なんだけど、この句の場合、「ちょつと」というずらし方とか、その辺の言葉のバランスが絶妙なんだと思いますね。
神野 桃って、ちょっと柔らかくて不安定な感じの在り様ですよね。あのぐらぐら感って、「ちよつと外」のぐらぐら感だなって気もします。その楽しみ方もある。
鴇田 いや僕だって、「桃」は、できればリアルな「桃」だとして解釈したいところだけど、この句のように「人生」って言葉と一緒に詠まれちゃうと、結局「桃」は、「性」とか「桃源郷」とか、そういったものの象徴としてしか読めなくなってくるよ。「桃」と「人生」をセットにした時点でそうなんだよ。だからこの句は、解釈の方向性が割と一本に決められてる句であり、そういう意味でのサービス精神がある句だと思う。広い読者が、割と同じような解釈で読めるようなサービス句という意味です。ある意味メジャーな句だよね。猿丸さん、たとえば、こういう句に打ちのめされるの?
榮 いや、いい句集読んで落ち込むっていうのは、どの句っていうより、全体的な水準の高さに…ですね。自分の好き嫌いっていうのは、もちろんあるよ。でも、それとは別に、句としての水準の高さは認めざるを得ない。
鴇田 そういう視点があるって素晴らしいね。俺なんて、好き嫌いだけだから(笑)
神野 わたしは猿丸さんに近いかなあ。好き嫌い以外の、水準みたいなこと、考えますね。
鴇田 いや、好き嫌いもあるけど、そもそもこの句、水準高いのかな。この句、俳句の世界にいる人以外にも読んでもらおう、というサービス精神の強さは感じます、それを水準というなら、この句の水準は高い。
野口 SSTは、なにをやるぞっていうポリシー的なものは、決まってないんですか?
榮 うん(即答)。
神野 その都度、面白そうなことがあれば、っていう感じなんですか。
鴇田 そうそう。
神野 メディアを持ちたいっていう気持ちはないですか?
榮 自分たちでやるのはめんどくさいんだよね。誰かやってくれないかな。
野口 スピカの中に、部屋ならつくることできますよ。
神野 SSTの部屋。SSTラボ、みたいな。
鴇田 ラボか、いいね。
榮 でもさ、いま、スピカのサイトがいい感じできてんじゃん?麒麟とかさ。おじさんが出てくるのもさ…。
野口 いやいや、そんなことないですよ。むしろお願いしたいくらいで。
榮 じゃあ、占いやるか。
江渡 占い?!(驚)
鴇田 いいかも。
野口 恋占いとか。人生相談的な。
江渡 どうなるんだろう…
神野 できれば、前向きに考えていただくということで(笑)今日は、長時間、本当にありがとうございました。
鴇田・榮 こちらこそ。
野口 関さん、間に合ったかなあ。
江渡 あとでtwitter見てみればわかるんじゃない?
神野 すごい時代だね。離れてる相手の状況も、すぐ分かる。
(終。次回は、「男性俳句」座談会を、ちょっとだけお見せします)