2012年7・8月 俳句甲子園の話③

村越敦×千倉由穂×高崎義邦×神野紗希×野口る理

神野  俳句甲子園がはじまって「俳句の世界」に若い人が増えてきたって言われてるけど、いわゆる「俳句の世界」といわれている世界、たとえば総合誌とか、結社や超結社の句会とかいろいろあるけど、すんなり馴染めた?

高崎  僕は、俳句甲子園が終わったあとも俳句が好きだったし、いろんなつながりが増えて積極的に参加してましたね。たとえば、北大路翼さんが、若い人集めて冊子作るって言ったときも参加したし、俳句の超大御所が並ぶ句会に誘ってもらったときも、やっべーやってて良かった、って思いました。僕の中ではもう、スピルバーグ達が並んでるイメージだったので。

村越  タランティーノはいなかったの?(笑)

高崎  もちろん、スピルバーグもいてタランティーノもいてっていう句会でしたよ。

神野  今聞いてて面白いなって思ったのは、そもそも俳人をスピルバーグに例えるタイプの若い俳人ってあんまりいなかったんじゃないかなって。俳句の世界にとびこんでくる若い人の質やタイプは変わってきてるのかもしれないね。

村越  質っていうのはどういうことですか?

神野  んー、なんにもなくても俳句やってみようっていう人と、俳句甲子園っていうイベント的なきっかけがあって俳句を始めた人との差は、やっぱり少しあるのかなって。みんな俳句好きなのは共通してるけど。

野口  じゃあ、さきさんとかは俳句の世界の中では異質ってこと?

神野  うーん、大学にあがって俳句サークルに行ったり句会にいったりしたとき、今まで高校でよく付き合っていた人間のタイプとは、全然違うタイプの人たちが集まってるんだというのが新鮮だった、という感じでしょうかね。

村越  る理さんとかがそういうタイプの核なんじゃないですか?

野口  いや、そんなことないでしょ、文芸部にも入らなかったし、自己表現にも燃えてないし。核の人のイメージが分かんないけど。

高崎  たしかに。

野口  というか、突き詰めれば、みんな違う、ってことになっちゃう。(笑)

神野  俳句の世界がどう変化するかはもう少し見守らなきゃ、ってところですかね。ついつい世代の特徴みたいなものを見つけたがるのが、私の悪い癖。

野口  では、先輩からなにかメッセージとかありますか?

村越  単純に俳句甲子園でやめちゃうのはもったいないから続けて欲しい。それに、これは俳壇へのメッセージになっちゃいますけど、続けて欲しいと思うなら続けたい人をなんとか引き上げることをしたほうがいいと思いますね。

神野  引き上げるっていうのは?

村越  一緒に巻き込むってことですね。

神野  具体的にどういうことがあるといいなって思う?だって、結社に入れって言っても入んないでしょ。うちにおいでよ、って言えば入る?

高崎  僕はすごくミーハーだったから、この作品集に載せてくれないかとか言われたら、やべー作品依頼だ、とかってテンションあがりましたね。だから、高校生の俳句コンクールとかだけじゃなくて、もっと俳句がうまい人たちを集めたような媒体があれば、面白いんじゃないかな。

神野  集めるかどうかは別としても、いろんな俳句の人が見られる場所、たとえば総合誌とかに作品を載せる機会が欲しいの?

高崎  そういうことがあれば、助けられる人もいると思うし、俳壇全体が、やりたいやつが残ればいいっていうスタンスに見えるから、そこはどうにか改善できたらいいと思う。やっぱり多いほうが盛り上がると思うし。

神野  やっぱり依頼されたら嬉しいよね。読まれる嬉しさっていうのは何物にも代えがたい。

村越  どこに向けて希望を言いたいかっていうと、やっぱりミドル層の人がぜひぜひやってくれると高校生とかもハードルが低くて入りやすいと思いますし。

神野  やってくれる、っていうのは何を?句会とか?

村越  僕は、句会の方がいいなって思いますね、一緒に俳句を楽しむ場、継続して俳句を作れる場があれば。

野口  でも、学生俳句会に人がいない現状がある訳じゃないですか。場はあるんだよ。俳句甲子園出身者たちが、場があるのに続けないっていうのはどうしてだと思う?

高崎  まず、第一の原因としては、俳句より楽しいことが見つかるっていう。

野口  もちろん、それはある。

高崎  でも、僕はいろんな楽しいことがあるけど、自分を表現できるかたちって持ってない。でも僕たちは、17文字という俳句形式をもらってる訳ですよ。それってすごい宝物だと思う。だから、ちょっとでも続けたほうがいいと思う。

神野  私の感覚だと、同じくらいの年の人と句会するより、レベルの上の人と句会する方が楽しかったんだよね。自分は全然おっつかない時でも楽しかった。だからそういう意味では、学生よりも大人が多いっていう東大俳句会の今の現状は、悪くないはずだよね。

野口  なんだろ、宣伝活動の問題なのかな。

村越  それはありますね。(笑)

千倉  大学生になって、今までは高校でずっと句会をする場があったのに一気になくなって茫然としたことはありました。幸いにも小熊座があったのでそれに参加してたんですけど。地元を出て大学生になっても、俳句をする場が欲しいですね。

神野  でもふつうは、俳句の場がもっと欲しいって人は、結社に入ってたんだよね。

千倉  結社の敷居がすごく高そうなんですよね。

村越  たとえばうちは学校の俳句部の顧問が俳句結社の「銀化」に所属しているので、銀化の句会に高校生の頃からしょっちゅう行ってたんですよ。結社ってこんなもんなんだな、とか主宰がいる句会ってこういう風に進むんだなってイメージがあった。だから、うちの高校の場合は、高校卒業から結社への接続がスムーズだと思うんですけど、他のところはまあその限りじゃないと思うし。

野口  でも、なんだかんだ地方の高校でも、指導に行っている俳人っているんだよね、オープンにしてなくても。だから、学校から結社への接続は存在してると思うんだけど。実際、千倉さんは、小熊座に入ったんだよね。

村越  他のチームメイトは入らなかったの?

千倉  そうですね、あまり・・・

高崎  むずかしい。単純に場を提供してもダメというか。僕も俳句大好きだけど、それでも途切れ途切れだし、よっぽどじゃないと続かない。

村越  だから、俳句より魅力的な他のことよりも、俳句が魅力的にならなきゃいけないってことだと思いますよ。

高崎  まぁ面白いか面白くないかは、個人の問題でもあるんですけど。俳句が超楽しいって思えないと、たくさん場があっても。

野口  そう、だから、環境は整ってるはずなんだよね。

神野  そうね、場が足りないって思ったことはないかなあ。

高崎  だから、楽しくなる時期に思いっきり栄養分与えるみたいなことが必要ですよね。

村越  たしかに、ある意味では俳句甲子園って爆発的に面白いもんね。(笑)

神野  このあいだの角川『俳句』六月号の特集で、片山由美子さん正木ゆう子さん星野高士さんの座談があったんだけど、若い人が俳句を続けない理由は今まで俳句よりほかに楽しいことがあるとか、基本的には若者側に問題があるとされてきてたんだけど、正木さんが、それは私たちが悪いのよ、結社に魅力がないからダメなのよ、って発言してて。

高崎  かっこいいな。

神野  そういう正木さんの俳句が好きだっていう人が多い訳で。彼女をリスペクトする人は多くても、彼女は結社持ってないから入れない。

野口  あとは、別にずっと続けてなくても、俳句甲子園出身者で、大人になってからまた再開する人もいると思う。大人になってから楽しむための俳句への取っ掛かり、種まきとして、俳句甲子園は有意義なんじゃないかな。

高崎  たしかに。20年後とかになって、一気に増える可能性とかもありますもんね。

野口  その頃も俳壇っていう形態がどうなってるか分からないけれどね。

神野  好きな俳人とかっている?

村越  僕はもう、小澤實さんです。はっきりと。

神野  小澤さんの、どこが好き?

村越  真摯なところや、朴訥っていうか穏やかなところとか。俳句は初期の方が好きですね。「夏芝居監物何某出てすぐ死」とか。一緒に場を共有したいし、自分の俳句を見てもらいたいなって強く思いますね。先日初めて、ゆっくりお話する機会があってそこはかとない感動を覚えました。(笑)

野口  間違いないねえ。

村越  あと、岸本尚毅さんは圧倒的にもう影響を受けまくってますね。たとえば句会の中での岸本さんの発言とかで自分の俳句への考え方や見方が形作られている気がします。岸本さんが結社を万が一立ち上げるということがあったら、間違いなく入ると思います。(笑)

神野  あれだけ的確な評を0.1秒で言える人ってなかなかいないよね。

村越  言葉に対する感覚が、それまでの蓄積があってこそのものなんだと思います。

千倉  私はやっぱり高野ムツオ先生ですね。人間性が好きです。句会のときとかもこの句はダメだとか言わないで、ここはダメでもここはいいと言ってくれて、懐の深さを感じます。適度に適当な寛容さがあって。あとは、宇多喜代子さん。すごくサバサバしてますよね。

神野  なんかむしろ、ムツオさんが母で、宇多さんが父、って感じだよね。

千倉  たしかに。(笑)

神野  そうか、やっぱり人間性ってところが大きいんだね。特に直接俳句を見てもらうって考えるとそうなるのかな。

高崎  僕は、この人がっていうのではなくて、この人のこの句が、っていうのがありますね。高野ムツオ先生の「青空の暗きところが雲雀の血」とか、中原道夫先生の句も好きだし。ミーハーだからいろいろ好きで、特に『現代俳句の海図』(小川軽舟著)に出てくる人はみんな好きですね。最近知り合ったんですけど、人柄的には坊城俊樹先生が大好きです。

野口  世代的にあのラインが好きなの?

高崎  そうですね、全員かっこいいなって思います。すごいヒーロー的な感じが。

野口  黄金世代、みたいな感じなのかな。

神野  あの世代についてはどう思いますか?

村越  世代として括って語ることにそれほど意味があるのかなっていうのは前からすごく思うんですよ。なにか同じようなものを共有してるのかなって予感はしますけど。でもたとえば、僕が岸本尚毅さんのことが好きなのと小澤實さんが好きなのは違うし。十把一絡げにみんな良いっていうのはちょっと無責任な気がする。(笑)

高崎  え、ちょっと、今好きな人を語る会でしょ、なんでそんな・・・(汗)

神野  なかなかね、世代論の話になると難しいところがあってね、好き嫌いっていう気持ちと一人の作家がどうかっていうのとはまた違うからね。

野口  世代論だと、押さえておかなきゃいけない人みたいな意識も働いてくるからね。

神野  そうそう、世代論っていうのはジャーナリスティックなんですよ。でも、そういう側面がないと歴史は作られていかないので、そういうものも必要だと思うんだけど、自分が世代論に対してどのようなスタンスを取るかってことは自由よ。よし、どんどん世代論を作っていこうっていう歴史の書き手になるか、いやいや、ひとりひとりの作家を見ていこうってなるのか。

村越  たしかに、縦糸か横糸か、って感じですよね。

神野  そうそうそう。だから自分がどういう役割を果たしていきたいか、ってことかな。どっちか欠けちゃっても良くないからね。

野口  これからどんな俳句を作っていきたいですか?

高崎  えっと、やるときはもう思いっきり楽しんでやりたいんで、見てて面白いって思われるような俳句を提示していきたい。いろんなことを試していきたいですね。俳句っていう表現形式の宝物を僕はもらったんで、それをフルに使って思いっきり楽しめたらベストだと思っています。

千倉  私は自分の思いとかを表現するのが苦手なんですけど、俳句だとすっと出てくるところがあって、だから俳句が好きなんです。俳句を作ろうと思う原動力として、いろんな経験がある訳じゃないですか。それをとりあえず、自分が興味のある方向に振り子が傾いたらとりあえず突っ走っていって、そこでなにがあっても俳句のかたちに仕上げられるという安心感があるので、そこで感じたものを俳句のかたちにおさめていきたい。

村越  僕は来年から働くので、最初の数年間は仕事で忙殺されてなかなか厳しいと俳句の諸先輩方にも言われるんですが、とにかく、息を長く継続してやる、っていうのを考えてます。どういうことを書きたいかっていうことを考えたとき、社会の現状とかこれからの世の中の雰囲気や価値観に関心があるんですが、それが意識することなく俳句形式ににじみ出てきたり立ち上がってきたりするような句が出来たらいいなって思うんです。あえて、そのようなシーンを書かずとも浮かび上がらせるような句が書けたら最高だなって思います。

神野  そうだよねぇ。たとえば、作りたいっていう先に、さらに、人に読まれたい、っていう思いはありますか?

高崎  僕はやっぱり読まれたいですね。基本的に作るときは、句会に行く時ですし、その評価は別にしても、人に読んで欲しいと思います。

村越  僕もはっきり読まれることを意識してますね。

神野  読まれるっていうのは、先生、句会、もっと広くとか、読者層を意識する?

野口  句会のメンバー、俳人、俳人以外の人とか。

村越  僕は結構、俳句の中で閉じてていいと思うんです。俳句っていう共通のコンテクストを共有してる人の中で分かってもらえればいいや、と。ただ、他方で、俳人っていう囲いとそのさらに奥にある俳句を知らない人っていうのを突き抜ける作品っていうのは絶対存在すると思っていて、それが書けたら最高ですけれど。

神野  じゃあ照準としては俳句のコンテクストの中で書く中で、外で通用できるものも生まれてくればいいなと思ってるってことだよね。

村越  そうですね、そうなればいいな、と思ってます。

高崎  やっぱり俳句の中で新しいものを作りたい。そこらへんに歩いてる人たちに見てもらってスゲーっていうのは、あると思うんだけど、やっぱり難しいと思うし、目下は俳句の中で認められるものを作りたいです。

千倉  私も読んでほしいなって思います。でも私は、目の前にある句会くらいまでしか意識してないですね。でも、高校時代や大学でも作ってる文芸誌とかに俳句を載せるとなると、やっぱり俳句やってない人にもちょっとでも分かってもらえる作品を作りたいなと思いますね。

神野  なるほど、ありがとうございました。本音をいろいろ聞けて、とても嬉しかったです。これからも、お互い最高の一句を目指して頑張りましょう。

(終)