2011年6,7月・第一回  春寒の星座のごとき絆かな  大木あまり(村上鞆彦推薦)

2011年6,7月   村上鞆彦×西村麒麟×生駒大祐×神野紗希×江渡華子×野口る理

村上   村上です。生駒くんとは、お会いしたことありましたっけ。

生駒   たぶんないんじゃないですか。

神野   そうなんだ!

生駒   今日は御世話になります。生駒です。よろしくお願いします。

村上   よろしくお願いします。

神野   麒麟くんと村上さんは、先週も飲んでた・・・

村上   彼を、僕の家に泊めました。

西村   翌朝、社会人になって以来の、ひどい二日酔いだったんだよね。落ち込んでる僕に、村上さんがとっても優しかった。「お酒買ってきてあげるから」っ てコンビニ行ってきてくれたり、「これあげるから」って『阿波野青畝全句集』くれたり。前に泊ったときは、飴山實の短冊もらったし。

神野   どんだけ(笑)

(店のコースターの裏に、持ち寄った句を書いてもらう)

神野   とりあえず、少し食べてからやりましょう。村上さんは、「南風」の同人の選句欄を担当しはじめたと聞きましたが、いつからですか?

村上   この六月から。二回目が終わったところです。

神野   同人は何人くらいいるんですか?

村上   二百人くらい。

神野   ほー!多いですね。

村上   だんだん減りつつあるんですけどね。

神野   てことは、選句は、山上樹実雄さんは、選句はされないということですか。津川絵理子さんが一般会員欄の選句を担当して、村上さんが同人欄の選句をして・・・

村上   僕たちが選んだ上位の中から、先生が、「今月の三十句」というのを選ぶんですよ。

一同   ほーお。なるほど。

春寒の星座のごとき絆かな  大木あまり
(『俳句 5月号』角川学芸出版、2011)

村上   『俳句』(角川学芸出版、2011年5月号)、特集「励ましの一句」から選んできました。最初、励ましの一句を集めてるって聞いて、心配だったの。 どんな句が出るんだろ、って。テレビで流れてるような、がんばれニッポンとか、お決まりのキャッチフレーズ的な句が並ぶのかなって思って。実際見たら、そ ういうものも、なくはなかった。あとは、芽吹きに復興のイメージを重ねるっ ていうのも、多いなって思って読んでたんですよ。で、読んでいくうちに、わだかまりみたいなものがすっと溶けてきて。なんでかなって思ったら、一句一句 に、詠んだ人の気持ちがこもってて、並んでた句が、読者に向けてちゃんと発信されてた。漠然とした誰かに読んでもらう、というのではなくて、受け手を見定 めて、詠んでいた句でした。一人だけで詠んで完結する 句とは違って、他者へ向けられた句の風通しの良さを、この特集から感じました。その中から、この句が特に心に残った。「絆」って言葉も、いま、政府が キャッチフレーズにしてて、新聞とかにも出てて。だから、「絆」っていわれると食傷気味になってたんだけど、この句見ると、「星座のごとき絆」かあ、と 思って。あらためて、絆ってことばを実感させてくれた句ということで、これをいただきました。

神野   「星座のごとき」という形容が新鮮でしたね。

村上   この比喩に惹かれましたね。

神野   星を仰いでいる、ってこともわかる。

村上   そう、寒い中で星を仰ぎながら、見えない線でつながっている、そういうものが絆だっていう。作者の優しさが出てるかなって。言葉もきれいだしね。

神野   星座って、古くからのものですしね。絆も原初からのもの、というイメージにつながります。

西村   僕も結構好き。「星座のごとき絆かな」ってフレーズが結構はまってるから、上五の季語がべたべただと、ちょっと恥ずかしい感じになると思うんだけ ど、「春寒」っていう微妙な季語を、うまく使ってるかな。これは、震災の「励ましの一句」って言われてるからそう感じるけど、そうじゃなくてもイケる句か なと思います。「春寒」がいい。冬だと寒すぎるし、精神的にも辛い。「春寒」だから、微妙な人間の体温みたいなものが出てくるんじゃないかなあ。

江渡   絆のやわらかさ、柔軟さっていう点で、春が一番合ってるのかなって。

野口   明るさ、芽ぶきの季節を考えてるんじゃないですか。秋だとさみしすぎるし。

江渡   冬だと辛い。

神野   夏だと、サークルのキャンプファイアーみたいな。

江渡   やっぱり春。

西村   「励まし」でストレートすぎるのもちょっとマッチョで・・・

村上   直接書かれるより、こういうふうに、なにかに託した句に惹かれました。

生駒   いわゆる「励ましの一句」に、厭な句と厭じゃない句があって、この句は、どちらかというと、最初は苦手なほうの句だったんですね。なぜかっていう と、「星座のごとき絆かな」っていうのは、あまりにも綺麗すぎて、上っ面の励ましに見えたんですけども、よくよく、深く考えてみますと、星座っていうのはあくまで、人間が主観で結びつけただけのものであって、本来、星々っていうのは、単独で生きている。生きているっていうわけじゃないですけど・・・単独で 在るものです。それが、想像力をはたらかせることによってつながっていくというのが星座。そう考えると、絆ってものを、上っ面だけじゃなく、深く捉えているのかなと思いなおして、これはいいんじゃないかと。「春寒」も、春になって、星座でも見に行こうかって行って、やっぱり寒いね、っていう寒さだと思いま す。「寒さ」のさびしさ、孤独を持ちつつも、「春」。これを励ましの一句に持ってきたのは、やっぱり適切だったのではと思います。

神野   たしかに「絆」って大々的にキャンペーンでやられると、「誰と絆を結ぶんだ?」みたいな困惑があります。誰と、っていうところがよく見えてこない ので実感がわかないんですけど、星座の星の数って、だいたい在っても十個くらいまでですよね。自分の手でなんとかできる人の数って、ちょうど星座の星の数 くらいかなって思ったとき、とても誠実な句なのかなと、私は思いました。

村上   作者自身が星を仰いでの感慨なんでしょうね、おそらく。押しつけがましさがない。

神野   はい。そして、あの人も見てくれているかな、ということを想像してもいい。

江渡   星と絆を合わせること自体は、今までもあったことはあったよね。東野圭吾の『流星の絆』とか。でも、さっき生駒くんが言ったみたいに、星座を作っ たのは、人間なんだよね。星の数ほど人がいるっていうのも、ありふれた言葉ではあるんだけど、この句のように書かれると、いいなって思いました。

野口   私も好きな句です。たしかに、うつくしすぎるかなって感じもしますが、人が決めたものっていうところに、冷たい視線もあるのかな、と。

神野   村上さんは、大木あまりさんの句は、普段読みますか。

村上   あんまり読まないですね。この前の『星涼』(ふらんす堂)っていう句集。さっと読んでしまったんですよ。で、みんな「いい、いい」って言うもんだから、もう一回読んでみようかなと思ってます。たしかに、「頬杖や土の中より春はくる」とか良いよね。

神野   ですよね。

村上   でも、蝉殻の句は、僕は好きじゃない。「握りつぶすならその蝉殻をください」。大木さんの参加してる同人誌「星の木」の第一号が出たとき、あの句がとても好きだった。「蝶よりもしづかに針を使ひをり」。

神野   好きそうですね!私も好きです。

村上   あれは、僕が見出したと、勝手に思ってるんですけど(笑)高柳克弘くんが、「現代詩手帖」の短詩型特集で、ゼロ年代の俳句百句を選んだときに取り上げてたらしくて。

江渡   あはは(笑)

村上   彼は早大俳研の後輩なのですが、「お前もまあまあ分かるようになったな」、と(笑)

西村   あはは(笑)

神野   最後の「をり」って言えるところがいいですよね。「けり」だと・・・

村上   荒っぽい。

西村   僕は、大木さん、「セレクション俳人」のものはそんなにって感じだったんだけど、「星の木」に発表してる作品や、『星涼』の句は好きだった。最近のほうが好き。長谷川櫂先生が、大木さんのこと、好きなんだよね。読売文学賞とったときも「喜ばしいことだ」って、「古志」の編集後記に書いて。結社的な力と 無縁でやってきた人だ、報われたのが嬉しい、っていう感じで。

神野   そうなんだ。昔、長谷川さんと大木さん、一緒に雑誌やってたよね。あとは千葉皓史さんと。「夏至」だっけ。

西村   だから、同志みたいな思いがあるんだよね。

村上   大木さん、「古志」にも少し所属してたでしょ。長谷川さんの『震災歌集』はどうだったの?

江渡   ネットでも「季語と歳時記の会」のブログで、ある程度見られますよ。

神野   かなり政治批判の強いものでした。

野口   蓮訪とほうれん草をかけたり。

村上   狂歌みたいね。

神野   なんで俳句じゃなかったんだろう、って。なんで短歌なんだろう、って。

野口   彼の、俳句の信条にそぐわないんじゃないですか。

西村   ちょっと安心しましたよね。長谷川櫂は、やっぱり俳句の人だって。

野口   短歌ではない、ってことで?

神野   逆説的に。

西村   村上さんは、長谷川櫂の句はどうですか。

村上   初期のものは素晴らしいよ。『古志』とかね。

西村   大谷弘至さん(現「古志」主宰)に、長谷川櫂第一句集『古志』をあげたのは、村上さんなんですよね。

一同    えええー!

村上   うん。大谷くんが『古志』持ってないっていうので、「あんた、長谷川さんのところでお弟子になったんだから、これ持ってなさい」って。「櫂」ってサイン入りの。

神野   アルファベットじゃなかったですか?「KAI」って。

野口   それ角川の『俳句』のインタビューで書いてた色紙のサインでしょ。

村上   漢字で大きく一文字、「櫂」でした。

西村   村上さんは、「古志」の人から、次々にものを奪われてる(笑)

(次回は、江渡華子の推薦句をよみあいます)

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