家にゐてガム噛んでゐる春休み   野口る理

 家で食べる菓子として、ガムにかすかな違和感がある。年代的嗜好が加わっているかもしれないが、ケーキや和菓子など飲み物を伴うものが家でのおやつの定番のイメージを形成してきたかと思う。あるいはアイスクリーム・チョコレート・プリン・蜜豆など、手を綺麗にしてテーブルについて食べたほうが良さそうなもの……。と、ここまで考えてきて、ああそうか、私の考えた「家」は「家庭」で、家族を前提とした「家庭のおやつ」なのだと気付いた。

 そういえば私も四六時中、家でお母さん役をしているわけではない。一人でパソコンに向かってものを書くときなど、飴を食べたり、ガムを噛んだりする。くつろいでガムを噛むこともありうるだろう。

 この句の「私」は一人で家にいて、いつもと違う時の流れを楽しんでいる。安心できる空間で少しだけ自堕落に。「春休み」の季語がぴったりだ。

「眠くなる」(『俳コレ』邑書林、2011)より。

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