紗希 さてさて、我々は、この記事がupされるころには、韓国にいますなあ。
る理 そうですなあ。
紗希 華ちゃんも合流して、3人で韓国の夜を楽しんでいます、きっと。
る理 月曜日に帰ってきまーす。
紗希 記事を書いている今は、まだ実感ないけどねー。実は海外って、中学校のときに市の留学生派遣事業でヨーロッパ行って以来、一度も行ったことないんだよね。る理ちゃんはこないだギリシャ行ってたね!
る理 はい、憧れのギリシア!ストライキに巻き込まれたりもしましたが、ゆたかな時間を過ごせました。韓国もたっぷり楽しみましょ♪
紗希 俳句はもちろんですが、添えられた文章も必読の連載でした。天気さんの俳句論が、わりあい真面目に語られていて、面白かったですね。天気の美学。
る理 うんうん、面白かった。自由自在に、色々なことを書いていただいています。写真も素敵でした、幼少期の写真から半世紀後の写真も!
紗希 俳句は虫しばりだったね。タイトル通り。
朝の蜘蛛シーツにたましひの残る(2012年7月5日)
紗希 シーツって、寝てる人の形がつくよね。あの人のかたちが、たましいだって言われたら、なんかすごく切ない気持ちになりました。だいたい、朝のシーツの人のかたちって、赤ちゃんみたいに体を丸めて寝てるイメージがあったし。
る理 真っ白なイメージでした。「朝」も「シーツ」も「たましひ」も白。「蜘蛛」もちっちゃいうすい色のだと思うな。まぶしい光が「残る」感じ。
紗希 でも、朝とはいえ蜘蛛だから、つかまえておくっていう、このシーツにあなたをとどめておく、みたいなニュアンスも出てくるのかな。
る理 おー、なんか色っぽいですねえ。そこにあったはずの肉体への思いも感じられる。
紗希 昨日、古い本引っ張り出して読もうとしたら、本の背表紙のところに、ちっちゃなちっちゃなハエトリグモの抜け殻がくっついててね。めっちゃかわいかった。あれは、「たましひの残る」っていうよりは、魂が消えたって感じだったけど。
原子炉は何かの蛹だと思ふ(2012年7月11日)
紗希 東日本大震災から一年とすこし経って、復興という明るい言葉が取り交わされればされるほど、福島の、原発の取り返しのつかなさがあらわになってきたころに、この句。何かの蛹だとしたら、何が生まれるのか。その化け物性。
る理 今読むとバケモノ性、なんですけれど、原発事故が起こる前はきっとあらゆる期待を詰め込んで美しい蝶になると思われてた訳ですよね。その、不穏で眩しい空気感が、変な昂揚感を誘う。
紗希 モスラとかゴジラのイメージもあるけどね。あれは核実験で生まれた怪物だったよね。
る理 たしかに!なるほど、つながりますね!ええとね、うすた京介『ピューと吹く!ジャガー』というギャグ漫画にも「なんかのさなぎ」っていう歌が出てくるんですよね。ヒップホップ術講師の忍者のハマーさんのデビューシングルで・・・、ってこの話は、まぁいいです。はい。
銀幕に斃れし人よ眼から蛆(2012年7月19日)
紗希 天気さんの句は、全体的に言葉の接続部分が淡くふんわりと飛躍していて、その遊びの部分が印象的なんだけど、この句は妙にリアルに見えてくるというか、ぴっちり作ってますね。こういうのも好きです。
る理 リアルに見えてくる、けど、これリアルじゃないですよね。私はこの句も、どちらかというとふんわり系な印象です。「よ」とか「から」とか優しい言葉遣い。あと、色のトーンがそろってますよね。銀幕の「銀」と「蛆」の白、「眼」も白いし、「人」の体もきっと白い。淡い色合い。
紗希 ダリの撮ったフィルムも、こんなグロテスクな感じだったよね。眼球がアップにされて、蟻が…。
る理 怖くて見てないです。目に剃刀が・・・ギャー、ってなってしまってギブアップ。
ででむしは煙のごとし其をつまむ(2012年7月20日)
紗希 かたつむりって、煙みたいだってあんまり思ったことなかったけど、煙のごとしっていわれたら、あの渦巻いてるからの形とか中身の透け具合とか、煙かも。
る理 ででむしが煙のようだ、は私的にはそんなに意外性はなかったですが、「其をつまむ」が良かったですねえ。渋いなあ。ぐっと実感になる。
紗希 つまめば、煙じゃないってことがはっきりわかるってところもいいなあ。不可思議なものをたしかにさわっている物質感。
る理 この「つまむ」って、おつまみとしての感じもあるんですよね。どれどれ、と口に放り込んでいるような。この「其をつまむ」は変に貫禄があって、すごく好きでした。
紗希 あ、そういえばこの野口って、る理ちゃんかな?
また蚊柱にからまれてゐる野口(2012年7月7日)
紗希 この風景、見たことある気がする(笑)。
る理 はい、からまれやすいです(笑)。もし私のことだとすれば、挨拶句まで作っちゃうサービス精神たっぷりな天気さんがにこにこしてる感じが見えてきますよね。
虫垂はさみしい臓器みなみ吹く(2012年7月31日)
る理 最後の虫。「虫垂」って、盲腸の端っこから、ぴょんってとび出してるアレですよね。アレがさみしい、っていうのは私にはちょっと意外で新鮮でした。
紗希 この句は、「みなみ吹く」の取り合わせは生ぬるくっておおらかで好きなんだけど、虫垂は、腫れたらすぐ切り取られちゃうし、必要度がほかの臓器に比べて高くないし、さみしい臓器っていう判断が、わかりやすすぎるかな、とは思うけどね。
る理 なるほどー、そういうことか。必要度の低さとさみしさは比例する、なるほど。
紗希 でも、この日の文章に出てくるベンチ、私もよく座ってるんだよね。天気さんと、生活圏内重なってるから。のわりに、まだバッタリ会うってことがないんだけど。
る理 そのうち、ベンチでお会いしましょう。
紗希 瑞華ちゃんは、愛媛県松山市在住。私と同い年で、きっと友人帳をつき合わせてみれば、おなじ知り合いもいっぱいいるだろうなあ。
る理 「粧す」というタイトルからもわかるように、ファッションについての連載をしていただきました。カワイイ写真も満載!
紗希 毎回、身に着けるものを俳句に詠んでもらって、それに関するエッセイをつけてもらったんだよね。ズイカ流の文章と俳句。好き嫌いがはっきり分かれる文体なのも、個性じゃないかね。
炎天下復讐の日の赤いパンプス(2012年8月3日)
紗希 炎天下で、しかも赤いパンプスだからね。この復讐は、さえぎるものがないね。絶対、遂げちゃう。
る理 赤すぎる・・・「炎天下」「復讐」「赤いパンプス」!
紗希 ヒールもばっちり、あわよくば踏んでやろうくらいの心意気を感じる。。
る理 いや、確実に踏むでしょ。
心臓をBANGと撃つふりビキニガール(2012年8月6日)
紗希 こういうの、ちょっと時代遅れの雰囲気があって恥ずかしいけど、でもこういうリアクションとってくれるビキニガールって、けっこういいやつな気がする。
る理 うん、しかも超美人。この「ふり」はなくていいと思いますけどね。ガチで撃ちにきてほしい。
紗希 こういう直球ど真ん中の、照れちゃうような句が、瑞華ちゃんの本領だよねえ。
る理 いっそ、「心臓」じゃなくてハートまで言っちゃったほうがいいのかな。もしくは「腎臓」とか。
アンティークボタン集める瓶に黴(2012年8月12日)
紗希 ナチュラル系、カントリー系のおされな家って、よく瓶をうまく使ってるよねー。その感じ。
る理 あー、見せる収納、ってやつね。「アンティークボタン」集めてるってことは、自分でお洋服作ったり付けかえたりするのかな。
紗希 しかし、なぜ黴?というところがちょっと解せないね。瓶には黴ってなかなか生えない気がする。「集める」「黴」っていう情報はいらないから、そのぶん、瓶のアンティークボタンがいきいきしてくるような季語が来るといいなーって思いながら見てた。
蔦伸びる逃避したい日の制服(2012年8月23日)
紗希 がんじがらめの蔦と、同じく着る者を縛る制服が、共通のものとして提示されてるんだけど、でも、同時に蔦は伸びていっているので、逃避したい彼女の思いの具現化でもあるわけで。そうすると、縛るものとしての蔦でありながら、伸びて脱出していく張本人でもある。そのへんのカオスな感じが、いいと思う。
る理 文体として、句の形はもっと整えられると思うけど、そうしちゃうとカオス感が出ないんだろうね。
紗希 この句の風景、素敵なイラスト描くイラストレーターさんに描いてほしいな。
渾身の強がり迷いなき全裸(2012年8月31日)
紗希 そして、ラストは全裸っていう(笑)。
る理 オチがつきましたね。
紗希 私はこの句、きっぱりしてて好きだな。全裸になってさらけ出しながら強がってるアンビバレント。渾身のっていうプラスイメージの言葉に強がりっていうマイナスを接続させるところもそうだよね。矛盾した感情が犇めいた結果、非常に分かりやすい人間象が出来上がっているところ、ああ、人間って混沌なんだなって思った。
る理 おおお、たしかに。裸、じゃなくて「全裸」なところも激しいなあ。文章もあわせ読むせいか、女子代表という気概が感じられる句が全体的に多かったですが、この句はそれを越えて瑞華さんが見えてくるような気がしました。やはり、全裸だからかな。この句からは、粧さなくったってあなたはステキ、という瑞華さんから悩める女子たちへのエールすら感じましたね。
紗希 ということで、次回は石原ユキオさんの「HAIKU OF THE DEAD」をよみあいます。あ、「なはなは」(神野紗希)もやるんかねえ?ちょっと相談の上、決めましょう。とにかく、来週もぜひ見てください。